表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/94

第84話 魔王国戦線 ― グランの戦いと“彼女”の再来

魔王国とその国境線。

そこに広がっていたのは、あまりに不釣り合いな戦力差だった。

迎え撃つのは、わずか五名。

グラン、セレナ、ユエ、シス、そして妖精族の精鋭たち。

対するは二万を超える人間の兵士と、災厄級モンスターを含む大軍勢。

大地を覆い尽くす黒き波が、咆哮と共に押し寄せてくる。

「……来るぞ」

グランの低い呟きに合わせ、仲間たちが武器を構えた。

シスは空を舞い、アンデッドを指揮して敵の頭上に威圧をかける。

妖精たちは精神干渉の術を用い、敵兵の心に錯乱を走らせる。

レイスは後方で詠唱を続け、広域結界の発動に集中していた。

前線では、グランが重力魔法で押し潰し、セレナがコウモリの群れを操って兵士と魔獣を翻弄する。

だが、それでも数はあまりに膨大だった。

「数が……多すぎるっ!」

次々と現れる災厄級モンスターたちが、通常の魔法や剣撃をものともせず突き進む。

防衛線はきしみ、魔族の兵たちも徐々に押し返されていった。

その瞬間、グランの鋭い声が響く。

「今だ、行けっ!」

合図と共に、魔王国の精鋭部隊が奇襲を仕掛けた。

敵の中央が手薄になった瞬間を狙った、一撃必殺の突撃。

ユエの強化魔法が兵士たちの力を底上げし、グランの重力制御が敵の動きを封じ込める。

仲間たちは常識外れの力を発揮し、災厄級モンスターさえも次々と討ち倒していった。

やがて、最後の巨躯が崩れ落ち、戦場に一瞬の静寂が訪れる。

「……勝った、か?」

息を荒げながら、誰かが呟いた。

二万の軍勢を、ほとんど損害なく退けたのだ。

安堵の空気が広がる――その刹那。

空気が、不気味にねじれた。

「……久しぶりですね。魔王様」

ぞっとするほど甘やかな声。

グランが顔を上げると、そこに立っていたのは――

「……ミリア!?」

かつての同胞。

二千年前、魔族の中でも最強と謳われたリヴァイアサン――ミリア。

彼女は薄く微笑み、ゆっくりと歩み寄ってくる。

「お久しぶりです。魔王様。あの頃は随分とお世話になりましたね。……でも、今は“あの人”の側についているんです」

「なぜだ……なぜ、あの人に従う?」

ミリアの瞳には狂気が宿っていた。

「人間と手を取り合う? 冗談でしょう。あの時の屈辱をお忘れになったのですか?

人間を支配し、奴隷にし、魔王様が頂点に立つ――それこそが、魔族の本来あるべき姿なのです!」

声は甘く、狂おしく響く。

「私は……グラン様を手に入れるために、二千年も鍛えてきたのです。強く、もっと強く……あなたに相応しい女になるために!」

「……ミリア、それは違う。今こそ種族を超えて手を取り合うべきなんだ」

グランの言葉に、ミリアは一瞬だけ寂しそうに目を伏せ――次に浮かべたのは狂気を孕んだ笑みだった。

「ふふ……悲しかったんですよ。私じゃなくて、あなたを封印したのが“あの女”だったのだから」

セレナが一歩前に出て、鋭い眼差しを向ける。

「グランはそんなこと、望んでいない!」

「黙りなさい……小娘が」

ミリアは冷ややかに目を細め、そして挑発的に微笑む。

「ひとまず今日は退きます。……ですが覚えておきなさい。次に会うとき、私が勝ったら――

その時は、グラン様。結婚していただきますからね」

狂気を孕んだ声を残し、ミリアの姿は掻き消えた。

残されたセレナは、わずかに震える声で呟く。

「……ミリアさん、変わってしまったのね」

グランは黙って空を見上げ、拳を固く握りしめた。

「あいつ……今の俺で勝てるかどうか……」

セレナはそっとグランの隣に立ち、優しく肩に手を添える。

「大丈夫。私たちがいる。……私が、ずっとグランの隣にいるから」

その言葉に、グランは小さく頷いた。

そして仲間たちのもとへ戻る――ミリアの再来を、皆に伝えるために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ