第82話 戦争の幕開け ― 現勇者パーティーと黒幕たち
リベルノア王国、魔王国、そしてイーストランド――。
三国が一致団結し、侵略者への備えを整え始めるその頃、敵の本丸である四季連合国と勇者の国、そしてその裏で糸を操る黒幕たちが、着々と動き出していた。
■現勇者パーティーとは
かつて世界を救った伝説の勇者パーティー。
その輝かしい名声にすがるようにして生み出されたのが――現勇者パーティーである。
表向きは「魔王復活に対抗するために結成された英雄たち」。
だが、その実態は 四季連合国の支配者層が民衆を操作するための道具 にすぎなかった。
「魔王が復活した」――その報が流れた直後、彼らの誕生は華々しく宣伝された。
「魔王討伐のため」「国を守るため」と掲げられた旗印のもと、民からは莫大な税が徴収され、資源も兵力も搾り取られていった。
勇者パーティーに選ばれた者たちには相応の“ご褒美”が与えられた。
いや、実際には――彼ら自身が支配と欲望の象徴そのものだった。
■現勇者パーティーのメンバー
勇者リオネル(男)
「俺は“選ばれた”存在だ。平民どもが頭を下げるのは当然だろ?」
タンク(重装兵)バルガン(男)
「守る? はは、俺が守るのは自分の快楽と立場だけさ。盾で殴るのも案外楽しいぜ?」
魔道士カミル(女)
「私に逆らったら灰にしてあげる。だって私は勇者パーティーの魔道士なんだから」
聖者アリス(女)
「祈ってほしい? ならそれなりの“奉仕”を見せなさい。……ふふ、嘘よ、冗談♪」
彼らは勇者の加護、タンクの加護、魔道士の加護、聖女の加護――かつての英雄たちの称号と力を与えられていた。
だがその内面は腐敗しきり、各地で暴力と略奪、さらには暴行を繰り返す。
民衆は逆らえなかった。
「勇者の名を汚すな」という声すら、国家の力で封じられていたのだから。
■剣聖の国の王
戦争布告を終えた剣聖の国。
王は玉座に腰掛け、薄い笑みを浮かべていた。
「……これからが始まりだ。この世界を、我が手に」
その瞳には、世界支配への欲望が隠しようもなく燃え上がっていた。
■暗躍する「あの人」
さらに奥深き闇の中。
仮面をつけ、神を騙る男――“あの人”が、ワインを傾けながら愉悦の笑みを漏らしていた。
「ああ、美しい光景だ……。混乱と争いの中にこそ、人の本質が現れる。ふふ、楽しみだ。この戦争をきっかけに、真の理想郷を築こうではないか」
傍らに控える使い人は恍惚とした表情で頷く。
「その通りです、“神の声”よ」
そして、もう一人。
闇の奥に潜むのは、かつて魔王軍の柱のひとつであった悪魔――
リヴァイアサン。
巨大な気配を押し隠しながら、冷ややかな声を発した。
「……で? 私はいつから戦場に出ればいいのかしら?」
仮面の男はグラスを掲げ、薄く笑った。
「まだです。まずは現勇者パーティーを出しましょう。『我々にはこれ以上の戦力はない』――そう印象づけるのです。
……彼らはいずれ敗れるでしょう。しかし――」
ゆっくりと顔を上げ、不穏な光を瞳に宿す。
「最後に笑うのは、私たちです」
黒き笑みが闇に溶け、やがて戦争の火蓋が落とされる。




