第79話 戦の幕開けへ
突然の侵攻により、各国の指導者たちは慌ただしく緊急会議を終え、それぞれが対策に奔走していた。
そんな最中に現れたのは、Sランクパーティー《サンライズ》。彼らが二千年前の勇者パーティーの末裔であると明かされた瞬間、場の空気は大きく揺らいだ。
「改めて、自己紹介をさせていただきます」
最初に進み出たのは、長い栗色の髪を束ねた凛とした女性。瞳は真っ直ぐで、その気迫は鋭い剣のように会議室を貫いた。
「私はシオン。勇者の末裔にして、“未来を選ぶ者”。
あの偽物の勇者たちが好き勝手するのを、黙って見ているわけにはいきません。この剣で、正義を貫きます」
言葉に宿る覇気に、誰もが息を呑む。
続いて、屈強な体躯の男が腕を組みながら前へ進み出た。
「ベン。タンクの末裔だ。背中は俺が守る――それが血に刻まれた役目だ。……それに、戦場の真ん中は性に合っている」
その声には豪快さよりも、静かな覚悟が漂っていた。
次に青紫のローブを纏った青年が、穏やかな笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。
「魔道士の末裔、リオルです。
血筋を隠してきたのは、我々が力に溺れることを恐れたから。ですが、歴史が動き始めた今――知恵と魔法の炎を惜しみなく振るいましょう」
最後に、純白の装束を纏う女性が静かに名乗った。
「……アキと申します。聖女の末裔です。
癒しは祈りであり、祈りは命を守る盾ともなります。どうか、この手が皆を繋ぐ架け橋となりますように」
柔らかな声は、戦いの中に一筋の光を灯すようだった。
サンライズの決意を受け、グランたちもまたそれに応じる。
「俺はグラン。魔王グランの転生者にして、今は魔王国の王だ。
だがこの戦いは過去の因縁ではない。“今”を生きる者として、未来のために立つ」
隣に立つセレナが、静かに頭を下げる。
「セレナです。吸血鬼の末裔にして、グランの傍らにいる者。……争いを嫌っても、大切なものを守るためなら剣を取ります」
続いてこはるが一歩前に出て、毅然と声を放つ。
「こはると申します。リベルノアの代表として、この剣を振るいます。
かつて奴隷のように扱われた私ですが、今は――この仲間と、この居場所を守りたいんです」
ナツもまた小さく息を吸い込み、真剣な眼差しで名乗った。
「ナツ。魔族と人間の未来のために、僕も剣を抜きます。戦いは怖い……でも、それでも守りたいものがあるから」
こうして配置は定まった。
現勇者パーティーへの対応:サンライズ
イーストランド東部の防衛:イーストランド軍+蓮
魔王国の防衛:グラン、セレナ、魔族軍
リベルノア王国の防衛:こはる、フェンリル、ナツ、リベルノア軍
開戦は七日後。
各国は住民の避難、兵站の整備、軍の配置と訓練に追われ、戦の足音が刻一刻と迫っていた。
その頃、グランは書斎で蓮が解析した“転生魔法陣”を見つめていた。
(竜族の転生魔法は寿命を代償にたった一度……。だが構造は似ている。もし融合できれば――)
脳裏に浮かぶのは、蓮が語っていた少女「ひかり」の姿。
彼女を呼び寄せる鍵が、そこにあるかもしれない。
同時に、胸にはもう一つの不安があった。
――核魔法。
ダンジョンで手にしたあの魔法は、触れた瞬間から「使ってはならない」と本能が告げていた。
蓮に尋ねると、彼は険しい表情で答えた。
「核魔法は、一撃で広範囲を殲滅する超高位の攻撃魔法だ。使えば味方も巻き込み、土地ごと消し飛ばす。……本当に最終手段だ」
その恐ろしさに、グランは改めて魔法の重みを噛みしめる。
その夜、魔王国の魔族を集めた戦術会議で部隊を振り分ける。
シスは空からの偵察、妖精たちは幻術で錯乱、アンデッド部隊は正面からの防衛、悪魔族は補助に回る――。
「最悪、核魔法も……」
その一言に、場の空気が重くなった。
仲間たちの安否への不安が胸を締め付ける。こはる、ナツ、フェンリル、蓮――皆が戦地に立つのだ。
「……みんな、大丈夫だろうか」
その時、背中にそっと触れる温もり。
「私たちは仲間でしょう? 信じてあげなさい」
セレナの柔らかな声が、不安を静かに溶かしていく。
彼女はグランを抱きしめ、その額に口づけを落とした。
「大丈夫。あなたなら、きっと乗り越えられるわ」
そして、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「……本番は、グランの方からしてね」
その言葉に、グランは小さく笑みを返し、心を奮い立たせた。
「――ああ。必ず勝つ。そして守ってみせる」




