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第76話 転生の理 ― ひかりを映す窓 ―

◆研究の成果

作戦会議が一段落したある日、蓮はグランを静かな書斎へと呼び出した。

「……争いとは関係ない話なんだけど、少しだけ時間をくれ」

真剣な声音に、グランは無言でうなずく。

蓮は懐から数枚の紙を取り出し、机の上に並べた。

それは、彼が長年研究を続けてきた転生魔法陣の写しだった。

「これ、以前見せた魔法陣なんだけどさ……最近ようやく少しわかってきたんだ」

蓮は指先で文字列をなぞりながら説明を続ける。

「この文様……ただの古代文字じゃなかった。バラバラに見えるけど、組み合わせ直すと“日本語”が浮かんでくるんだ。そこに記されていたのは――“名前”や“願い”」

グランの目が驚きに見開かれる。

「……つまり、召喚に必要な要素が判明したってことか?」

「ああ。でも、まだ不完全なんだ。呼び出すことはできても、“戻す”方法が分からない。片道切符かもしれないんだ」

蓮の声には焦りと不安がにじんでいた

第78話転生について


◆ひかりの姿

グランはしばし考え込み、やがて視線を上げた。

「……覗くぐらいならできるかもしれない。

時間停止魔法と空間操作、それに竜族の転生理論を組み合わせれば、対象の世界を映し出せる」

彼はそう言うと、机の上に簡易的な魔法陣を描き、魔力を流し込む。

淡い光が広がり、やがて宙に“窓”のような空間が開いた。

そこに映し出されたのは――一人の少女。

「……ひかり……!」

蓮が息を呑む。

窓の向こう、学校の教室にひとり佇む少女。

誰とも言葉を交わさず、机に落書きをされ、後ろへと押しやられても抵抗の声すら上げない。

無視され、いじめられ、孤立している。

その光景は冷酷な現実でありながら、ただ静かに映し出されていた。

「やめろ……ひかり……!」

蓮が叫んでも、その声は届かない。

ガラス越しの世界は冷たく沈黙していた

第78話転生について


◆焦燥と静止

「……助けてやりたい。今すぐにでも」

蓮の拳が震える。怒りと悲しみ、そして強い決意が入り混じった表情だった。

だがグランは重く首を振った。

「今、彼女を呼ぶのは危険すぎる。戦争が迫っているこの世界に、何も知らない彼女を連れてきてどうする? 巻き込むだけになる」

「それでも……! あのまま放っておけない!」

蓮の声には激情が宿っていた。

だが、その間にシスが姿を現し、静かに言葉を差し挟む。

「蓮、焦るな。……今は“時”じゃない」

シスの瞳は真剣だった。

「転生は“命”と“世界”の理を曲げる術だ。そう簡単に行えるものじゃない。

もし成功したとしても、彼女の心は壊れるかもしれない。戦場に放り込まれるようなものだ」

蓮は唇を噛みしめ、目を閉じた。

「……分かってる。でも、いつか必ず……!」


◆約束

そんな蓮の肩に、グランがそっと手を置いた。

「その時が来たら、協力する。約束するよ」

窓の向こうを再び見やると、ひかりは静かに窓の外を眺めていた。

その瞳は、遠くを――誰かを探すように揺れていた


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