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第75話 幼き日の泣き虫グラン

◆出発前の夜

魔王国へ出発する前夜。

グランが部屋で旅支度を整えている間、両親――リオとレナは居間で静かに語り合っていた。

「……もう、行ってしまうのね」

リオがぽつりと呟くと、レナは微笑みながらも少し寂しげに頷いた。

「そうだな。まだ十五だっていうのに、大人びちまって……」

二人の視線の先には、幼き日の思い出が浮かんでいた。


◆泣き虫だった頃

小さな頃のグランは、泣き虫で甘えん坊だった。

庭先で転べば膝をすりむいただけで大粒の涙を流し、雷が鳴れば「こわいよ……!」と叫んで両親にしがみつく。

夜中に怖い夢を見れば、布団を抱えて両親の部屋へ駆け込み、「一緒に寝ていい?」と袖を掴んで離さなかった。

「……あの子、ちょっと転んだだけで大泣きしてさ。泣きながら抱きついてくるのが日課みたいだったよね」

リオは思い出し笑いをしながら、そっと目元を拭った。

「うん……泣き顔のグランも可愛かったけど、あの子の『強くなるから!』って涙ながらに言った姿……忘れられない」

レナは目を細め、愛おしげに微笑んだ。


◆変化のきっかけ

だが、変化は突然訪れた。

セレナという少女を家に連れてきた日、そしてフェンリルが傍に現れた日――。

「セレナちゃんを連れてきてから、急に変わったのよね。泣き虫だった子が、誰かを守ろうとする顔になってた」

リオは頬に手を当てながら呟く。

「フェンリルもだ。あの聖獣が側にいるようになってから、グランは“泣き虫の子ども”から、“頼れる青年”に変わった」

その変化はまるで、何かが目覚めたかのようだった。

そして二人は気づいた。――グランの中に眠っていた“魔王”としての記憶が、この頃から蘇り始めていたのだと。


◆十五歳の決意

「……十五歳なんて、まだ子どもだと思ってたのに」

リオの声は少し震えていた。

「でも、今のグランはもう大人よ。自分の意思で未来を選び、仲間を導こうとしている」

レナは夫の手を握り返し、静かに言った。

「うん……泣き虫だったあの子が、もうこんなに立派になったんだ」

「ええ。あの子なら大丈夫。……そう信じましょう」

二人は顔を見合わせ、小さく微笑んだ。

窓の外では、旅立ちを告げるかのように夜空に星が瞬いている。

そして翌朝――グランは仲間たちと共に、魔王国への道を歩き出した。

もう泣き虫ではない。十五歳にして背負うにはあまりに大きな宿命を抱えながらも、彼は確かに前を見て進んでいた。


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