第74話 決意の出発前夜 ― 家族の想いと旅立ち ―
◆我が家の温もり
魔王国への出発を翌日に控え、グランたちは久しぶりに自宅へ戻っていた。
懐かしい空気に包まれ、思わず胸の奥が緩む一同。
だが同時に、グランの心には明日からの未来に挑む重たい覚悟が刻まれていた。
リビングで両親と向き合い、グランはゆっくりと口を開いた。
「……父さん、母さん。俺、明日……魔王国へ戻って、“魔王”として立つことにした。もう……逃げずに、俺なりにこの世界と向き合うよ」
一瞬の静寂のあと、父・リオが豪快に笑い、息子の肩を力強く叩いた。
「そうか！ まさか自分の息子が国のトップになるとはな。すげぇ……誇らしいよ。胸張って行ってこい！」
母・レナは穏やかな笑みを浮かべ、優しく言葉を添える。
「無理はしないでね、グラン。何があっても私たちはあなたの味方よ。魔王でも、国の長でも、あなたは私たちの大切な息子。辛くなったら、帰ってきなさい。この家は、いつだってあなたの居場所なんだから」
その言葉に、グランの目が少し潤んだ。
◆仲間たちの想い
そのとき、こはるの両親が一歩前に出て、深々と頭を下げた。
「……今まで、こはるを守ってくれてありがとうね」
「これからも、娘を頼みます。あいつは頑張り屋だから、無理しないよう見てやってほしい」
グランは真剣にうなずき、隣でこはるは頬を赤らめながら微笑んだ。
フェンリルがのんびりとあくびを漏らし、気楽な声で言う。
「俺はどこまでもついてくよ。主が魔王になったって、寝床とごはんがあれば幸せだからな～」
セレナは腕を組み、少し照れたように視線を逸らしつつ告げた。
「……どんな立場だろうと、あなたは私の大事な“人”よ。何があっても、そばにいるわ」
ナツは真っ直ぐにグランを見据え、力強く言葉を紡ぐ。
「俺も、あんたについてく。魔族とか人間とか関係ない。信じられるのは、一緒に戦ってくれる仲間だけだ」
蓮は静かにグラスを傾け、落ち着いた声で続けた。
「後方は任せてくれ。君たちが動きやすいように整えておく。……信じてるよ、グラン」
仲間たちの言葉に囲まれ、グランの胸は温かさで満たされていった。
◆食卓と夜空の下で
レナが手を叩き、にこやかに声を上げた。
「じゃあ、今日は皆で夕ご飯にしましょう！ 好きなものをいっぱい作ってあるわよ！」
「おおー！」「やったー！」「肉だ！」「うおぉ、食うぞ～！」
にぎやかな歓声が飛び交い、食卓には笑顔と温もりが広がる。
束の間の安らぎに、皆が家族のようなひとときを楽しんだ。
食事を終えた後、グランはひとり外へ出て夜空を見上げた。
静かな星々の瞬きの下、背後から足音が近づく。振り返れば、そこにリオとレナが並んで立っていた。
リオは力強く言う。
「……頑張れよ、我が息子。どんな運命でも、お前はお前だ」
レナはそっと息子の手を握り、優しく微笑んだ。
「……生きて、必ず帰ってきてね」
グランは小さく、しかし確かな力強さを込めてうなずいた。
「……うん、必ず」
夜空の下、泣き虫だった少年は――
家族の愛と仲間の絆に支えられ、魔王としての未来へと歩みを進めようとしていた。
