第73話 魔王としての決断 ― 仲間に託す想い ―
◆グランの決意
婚約発表を経て情勢が一気に不穏さを増すなか、グランたちもまた急ぎの対応を迫られていた。
まず、蓮の出身国である「イーストランド」との同盟が正式に決まり、蓮自身が調整に動くこととなる。
並行して各地では軍備が再編成され、いつ戦火が起きても即応できるよう備えが進められていた。そんな中、グランは一同を前に、重々しく口を開いた。
「……俺は、一度魔王国へ戻る。魔王として、この戦いに加わる」
その宣言に場は凍りつく。
グランは視線を伏せ、苦悩をにじませながら続けた。
「……けれど、二千年前、俺は“守る”ために戦った結果、すべてを失った。今回も同じことを繰り返すだけなんじゃないかって……。だから他の道があるなら、犠牲を最小限にできる方法があるなら、どうか考えてほしい。戦っても何も生まれなかったことを……俺は知っているんだ」
◆王の言葉
静寂の中、イーストランド国王が重く口を開いた。
「……以前、君に言った言葉を覚えているかい? “上に立つ者は、時に悪者にならねばならない”と。
誰も争いなど望んでいない。だが、それを止めるために、時に争いを背負うのが我々の責務だ。私は国民を守らねばならない。君も――魔王として立つ以上、“何のために”魔王になるのかを忘れてはならない」
その問いに、グランは言葉を詰まらせる。
「……そ、それは……大切な人を守るために……。
でも……二千年前も、その想いで戦ったのに、失ったんだ。守れなかった……。
だから、もう誰も失いたくない。でも……それでも立たなきゃいけない。
本当は……どうしたらいいのか、分からないんだ……」
◆仲間たちの想い
沈黙を破ったのは、セレナだった。
彼女はそっとグランの手を取り、優しい声で告げる。
「グラン……私は、あなたがどう決断しようとついていくわ。魔王だろうと人間だろうと、あなたはあなたよ」
続いてこはるが力強く頷く。
「私も同じです。グランさんが何を選んでも……私は、あなたのために剣を振るいます。
誰かを守りたいって気持ち、私、分かりますから」
フェンリルは伏し目がちに言った。
「主……おれが弱かったばかりに、主に辛い思いをさせてしまった……。今度こそ、支えになりたい」
そしてシンが前へ進み出る。真っ直ぐにグランを見据えながら。
「……グランさん。僕は戦います。二千年前、あなたの決断は確かに辛かったと思う。
でも、母上やシスさん、そして僕たちは――誰も恨んでなんかいません。
むしろ、あなたが今も生きてくれていることに感謝してる。だから……今回も信じたい。
あなたが“魔王グラン”であることを。そして、今度こそみんなで守れるってことを」
その言葉に、グランの目に涙がにじむ。
「……うん。みんな……ありがとう」
◆再び魔王国へ
セレナも、こはるも、それぞれの想いを改めて伝え、グランを支える覚悟を示した。
蓮は国の調整のために残ることとなり――グランたちは、再び魔王国へ戻る決意を固めるのだった。




