第71話 闇に蠢く者たち ― 世界を呑む陰謀 ―
◆密やかな会談
婚約発表を終えたゼルマールの城奥。
豪奢な装飾に囲まれた一室で、重苦しい密談が始まっていた
集まったのはゼルマール国王とその王子、そして――裏で操っている「あの人」。
傍らには、忠実な使い人の影も控えている。
国王が口火を切った。
「これで舞台は完成した。あとは予定通り、演じるだけだ」
王子もまた、不敵な笑みを浮かべる。
「連合国の奴らも、まさか本当に我らと手を組むとはな。終わったら、あいつらも用済みだ。潰すのは容易い。全ては我々の手中にある……そのために、ミリアを派遣した。あれが味方だと信じ込ませるには十分だろう」
使い人は恭しく頭を垂れた。
「全ては貴方がたのために」
ただ一人、“あの人”だけが沈黙を保ったまま、誰とも視線を合わせようとしなかった。
◆国王の忠告
それでも国王は続ける。
「相手の戦力は高が知れている。蓮とグラン――だが、その程度なら剣聖の末裔とミリアで十分に対処できる。我々には勇者パーティーも付いているし、軍事力も他国とは桁違いだ」
一度、言葉を区切り、その瞳を鋭く光らせた。
「だが、傲慢は敗北の始まりだ。慢心するな。必ず入念な作戦を立てろ。些細な綻びが全てを崩す。油断するな」
重々しい声音に、一同は深く頷き、会談は静かに幕を閉じる。
◆残された影
やがて国王と王子が去り、部屋に残ったのは“あの人”と使い人だけとなった。
重苦しい沈黙の中、“あの人”がふっと笑みを浮かべる。
「――なんと惨めな人間たちだ。自らを勝者と信じて疑わぬその姿こそ、哀れだ」
その声は冷たく、狂気を孕んでいた。
「全てが終わった暁には、連合国も、ゼルマールも、魔族も、勇者さえも……すべてを終わらせてやる。この世界を、俺だけの理想郷へ作り変える」
使い人は狂信的な笑みを浮かべて応じる。
「もちろんです。“あのお方”こそ真の王。ミリアにも、今は役者を演じてもらってますから」
二人の影が黒い霧のように広がり、部屋を満たしていく。
その不穏な気配は、やがて世界の隅々にまで静かに染み渡っていった――




