第70話 新たなる勇者と暗躍する影 ― ミリアの再臨 ―
◆勇者との邂逅
一夜が明け、静けさを取り戻した王都に朝日が差し込む。
グランたちはミシェル女王やクレア王女たちを護衛しながら、帰路についた。
街道を進む一行の視線の先に、別の護衛団が見えてくる。
四季連合国の旗を掲げ、その中心に歩むのは――どこか見覚えのある冒険者たちの姿。
(……新たな勇者パーティー)
そう直感した瞬間、グランとその中の少年の視線が交錯する。
ほんの一瞬。
だが確かに、二人は互いを見定めるように目を合わせた。
(あれが……勇者か)
胸中で呟いたグランは、すぐに視線を逸らし、何事もなかったかのように馬車へと戻った。
剣聖の末裔が告げた「今回は何もしない」という言葉通り、道中は驚くほど平穏に進み、やがて無事にクレア王女の国へと戻ることができた
第71話9一夜が明け
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◆密談の裏側
だがその頃――四季連合国の奥深く、重い扉で閉ざされた秘密会議室では、別の動きが始まっていた。
集まっていたのは各国の王や指導者たち、そして勇者パーティーの面々。
表向きには平和と協力を掲げる彼らだったが、その裏では冷酷な計画が語られていた。
「――剣聖の国と手を組み、この世界を我々の手に収める」
「魔王国を徹底的に滅ぼし、剣聖と勇者を崇める“新たな支配国家”を築くのだ」
その言葉に、室内の空気はどこか陶酔にも似た熱を帯びていく。
「下民どもからは重税を徴収し、我々は上位の存在として優雅に暮らす……そのために“あの人”と手を組んだのだ」
「そして勇者よ。お前も、この計画に同意しているな?」
勇者は口元に薄ら笑いを浮かべ、静かに頷いた。
「ええ。平和なんて幻想です。世界は、力ある者が支配すべきですから」
「ふふ……さすがだ」
不気味な笑みがいくつも広がる。
◆蒼き影の再臨
その時、会議室の扉が音もなく開いた。
「紹介しよう。我らの切り札だ」
入ってきた人物の姿に、場の空気が一変する。
蒼きドレスを纏い、神々しいほどの美貌を放つ女性。
その周囲には、海そのもののような淡い魔力が揺らめき、空気すら重く感じさせた。
「2000年前、魔王国にて“四天王”と呼ばれた魔族。海の化身――“リヴァイアサン”、ミリア様だ」
名を呼ばれた女性は、妖艶な微笑を浮かべ、勇者たちを一瞥する。
「ふふ……懐かしいね。人間たちがまた愚かな選択をしようとしている。でも――それも悪くない」
その声は美しくも冷たく、未来を嘲笑うかのようだった。
この瞬間――世界の歯車は音を立てて狂い始めたのである




