第69話 夜の誓い ― 3人の絆 ―
◆こはるの決意
静まり返った夜の回廊に、月明かりが差し込んでいた。
先ほどまでの、グランたちと剣聖の末裔とのやり取りを、一人の少女が物陰からじっと見つめていた。
――こはるである。
その表情には、驚きと、わずかな畏怖、そして覚悟が入り混じっていた。
(……あの人が、剣聖の末裔……)
こはるはそっと胸中で呟く。
(同じ剣聖の血を引いている。でも私は加護を持たない。あの人こそ、正統な後継者……)
小さな拳をぎゅっと握りしめる。
(いずれ戦わなければならない相手。避けられない。逃げられない。これは……私の運命)
こはるは静かにその場を後にし、自室へと戻っていった
第70話静まり返った夜の回廊に
。
◆夜の語らい
部屋の扉をそっと開けると、そこにはすでにセレナとクレアが起きていた。
ランプの明かりがほのかに灯る中、二人はベッドに腰掛け、何やら語り合っていたようだった。
「……こはる、どうしたの?」
セレナが気づいて声をかける。
「……剣聖の末裔の人を見てきたの。姿も、声も、気配も……全部がただ者じゃなかった。あの人と、いつか戦うことになると思う」
こはるの声には怯えも迷いもなく、ただ静かな覚悟だけが宿っていた。
セレナは真剣な顔で頷く。
「……そうか。でも、無理はしないで。私もきっと同じように戦うことになると思ってる。けど、私たちの敵は一人じゃない。いつ、どこで、何が起きるか分からない……だからこそ、お互いを信じて、支え合っていかないと」
その言葉に、こはるも小さく頷いた。
◆クレアの涙
そのとき、クレアがぎゅっと胸元を握りしめた。
「……ほんと、あなたたちには頭が上がりません。私はただのお姫様で、戦う力もない。ただ見ているだけで……本当にごめんなさい」
その声は震え、悔しさと情けなさがにじんでいた。
セレナはそっとクレアの隣に座り、優しく肩に手を置く。
「……クレアはクレアにしかできないことがある。私たちは国を動かすことができない。でもクレアは、王女として人を動かせる。言葉で、存在で、国をまとめられる。だから、自分を卑下しないで」
こはるも、クレアの正面に立ち、真っすぐな目で言う。
「うん。私も戦うって言ったけど、怖くないわけじゃない。セレナがいて、クレアがいて、だから強くなれる。私たち……みんなが必要なんだよ」
クレアの目に、ぽろりと涙が浮かぶ。
「……ありがとう。……私、もっと頑張る。今までの自分に恥じないように、胸を張って……あなたたちの隣にいられるように」
ランプの淡い明かりの中、三人はゆっくりと手を取り合った。
誰が欠けても、今の絆は成立しない。
力を持つ者も、持たない者も、立場が違えど互いに信じ合い、支え合っていた。
この夜、三人の間に――
かけがえのない、強くて温かな絆が結ばれたのであった




