第67話 ゼルマールの影 ― 剣聖の末裔の眼差し ―
◆到着
ゼルマールへと向けて出発してから五日。
道中はおおむね平穏で、時折魔物に襲われることもあったが、グランたちにとっては散歩の延長のようなものだった。
フェンリルやナツ、蓮による護衛も万全で、大きなトラブルもなく旅は順調に進んだ
第68話ゼルマールへと向けて出発してから五日
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そして――ついに、剣聖の国ゼルマールの首都に到着する。
石造りの巨大な門をくぐると、そこには軍服に身を包んだ兵たちが何列にも整列していた。
まるで一糸乱れぬ機械のように、全員が背筋を伸ばし、剣を掲げ、重く鋭い敬礼を捧げる。
広場に敷かれた真紅のカーペットの先には、ゼルマール国王が厳しい眼差しで立っていた。
その隣には、息子と思しき壮年の男も並んでおり、父に似た威厳を漂わせている
第68話ゼルマールへと向けて出発してから五日
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そのカーペットを進むのは――ミシェル女王、ルーク王子、そしてクレア王女。
一歩後ろにはグランが控え、近衛騎士団が左右を固める。
さらに外周ではフェンリルやナツ、蓮が馬を駆り、警戒を続けていた。
国王は三人を静かに迎え入れ、グランたちにも形式的な挨拶を交わすと、ゲストルームへと案内した。
その一連のやり取りを、城の高台からひっそりと見下ろす者がいた。
銀の髪に鋭い眼光。腰に帯刀しながらも、存在を感じさせぬ足取りで影に潜む。
(あれが……グランか)
細められた瞳に映るのはただ一人。
――剣聖の末裔。その血を継ぐ者は、既に彼らを見定めていた
第68話ゼルマールへと向けて出発してから五日
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◆各国の会議
やがて、ゼルマール城の会議室には各国の代表が次々と集まり始める。
かつて勇者と共に戦った四大連合国――勇者パーティの仲間たちが築いた国家の代表者たちだ。
それぞれの国王や王女、大臣たちが、二名の警護を伴って入室する。
玉座の間に設けられた長卓に、国ごとの紋章が並ぶ。
「久しぶりですな、ミシェル女王。我がアーセリア王国も、こうして同席できたことを光栄に思います」
深紅のマントを纏ったアーセリア王国の国王が静かに頷く。
「王女クレア殿のご成長、噂には聞いております。お会いできて光栄です」
神聖リューベリア皇国の王女が、微笑を湛えて礼を取った。
「この国の軍事力には相変わらず目を見張るものがありますな。だが……民への統治にも目を向けていただきたい」
水の国ヴェルナの大臣は皮肉めいた言葉を洩らす。
「剣聖の末裔が守る国か。誇り高き者たちだ。我が息子に剣の指南を頼めるなら、何よりの名誉」
火山の民・グラーデ帝国の王は重々しい声を落とした
第68話ゼルマールへと向けて出発してから五日
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互いに牽制し合う重鎮たちの会話は続く。
だが奇妙なことに――「クレア王女との婚約」を前提とした申し出は、どの国からも一切出なかった。
本来ならば政略結婚が当然の場。少なくとも数国が持ち出すはずの話題を、誰も口にしない。
(……勇者の国からの動きが、何もない……?)
グランは窓の外に視線を向け、思案に沈む。
すでに勇者が転生して現れたことはセレナの調査で察知していた。
だが、その存在が各国からも“まだ伏せられている”ということは――
(勇者の復活は、まだ公にしてはいけない理由がある……)
それが何を意味するのか、今はまだ不明。
ただ確かなのは、この場に集った者たちの中に、既に“動き出した者”がいるということ。
そしてその視線の奥で、またひとつ新たな陰謀が蠢き始めていた




