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第66話 ゼルマールへの道 ― 剣聖の末裔を継ぐ国 ―

◆転移門の向こうへ

転移門を抜けた一行は、すでに剣聖の国――ゼルマールの国境付近に到着していた。

今回の任務は、王女クレアの護衛である。

そのため王家の馬車に同行する形となり、グラン・セレナ・こはるの三人はクレアとその家族――ミシェル女王、第一王子ルークと同じ馬車に乗り込んでいた。

外では、フェンリル、ナツ、蓮の三人が馬に跨がり、険しい表情で周囲を警戒する。

風の流れや地形の歪み、獣の気配すら見逃さず、いつ襲撃があっても対処できるよう気を張り詰めていた。

馬車の内部は意外なほど静かで、穏やかな空気が漂っていた。


◆王族との対話

ミシェル女王が、ゆるやかに一礼した。

「改めて、どうぞよろしくお願いいたします。私、ミシェルと申します。……本来ならば、こちらから頭を下げる立場ではないのかもしれませんが、クレアを守ってくださる皆さまには、心から感謝しております」

その礼儀正しく柔らかな物腰に、グランは思わず眉を上げた。

軍事国家の王妃――それも冷徹な統治者を連想させる国の中で、これほど温かな気配を持つ人物がいるとは。

続いて、若い第一王子ルークが頭を下げた。

「ルークです。今回は母と妹を任せることになる。どうか、よろしくお願いします」

セレナが思わず微笑み、こはるも小さく「丁寧な王子さま……!」と感嘆の声を漏らした。

グランは軽く頷き、静かに問いかける。

「女王様……ひとつ、お聞きしても?」

「はい、どうぞ。何でもお答えしますわ」

「ゼルマールが“剣聖の国”と呼ばれる理由について、学院でも学びましたが……実際にどういった国なのか、もう少し詳しくお伺いしたいのです」

ミシェルは小さく頷き、静かに口を開いた。


◆ゼルマールの実態

「そうですね……。まず、基本的な点として、ゼルマールは確かに“軍事国家”です。国王が軍の最高指揮官を兼ね、国政のあらゆる決定が軍の方針に基づいて下されます」

彼女の声は落ち着いていたが、その内容は重く響いた。

「国民は一定の年齢になると徴兵され、最低でも五年間は軍に所属しなければなりません。優れた者は士官へ登用され、さらに上を目指すこともできますが……多くはただ“従うだけ”で終わります」

セレナが少し眉をひそめる。

「つまり……拒否すれば?」

「拷問、です。あるいは強制労働」

即答する女王の静かな声に、こはるが小さく息を呑む。

「ええっ……そんな……!」

ミシェルはさらに続けた。

「また、国内の鉄資源なども軍が完全に掌握しています。民間人が金属製の武器や道具を持つことは禁止されており、見つかれば罪に問われるのです」

グランは黙って聞きながら、学院で学んだ内容を思い返す。

(……想像以上だ。徹底しすぎている)

「現軍王は強権的な統治を行っています。その結果、国の防衛力は飛躍的に高まりましたが……同時に貧富の差は激しく広がりました。上層は贅沢を尽くし、下層は一握りの鉄を得るために命を削る――それが今のゼルマールです」

こはるがぽつりと呟く。

「それって……人として、生きることすら許されない感じだね……」

ミシェルは悲しげに頷いた。

「だからこそ、クレアには“真に人を思う心”を育んでほしかったのです。軍や地位に左右されず、自らの目で世界を見て、選び取る力を」

その言葉に、グランは女王をただの権力者ではなく、人の本質を見据える強さと優しさを備えた人物として感じ取った。


◆剣聖の末裔

「……ちなみに、“剣聖”の末裔がゼルマールにいると聞きますが?」

グランの問いに、ルークが応じた。

「ああ、それについては俺から説明しよう。剣聖の血を引く者は代々この国に住み、血統も正式に証明されている。軍王とは別の立場で、“象徴的存在”として扱われているんだ。彼らは“剣聖の加護”を受けたとされ、実力は本物。おそらく、この国で最も強い」

セレナとこはるが顔を見合わせる。

こはるはどこか落ち着かない面持ちで、自らの手をぎゅっと握りしめていた。

(剣聖の末裔……わたしの血にも、きっと……)

不安とも決意ともつかない想いを胸に、こはるはそっと窓の外に目を向けた。

道はまだ続く。

そして、ゼルマールの真実と陰謀が、少しずつその姿を現し始めていた――



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