表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/95

第65話 護衛任務まで ― 揺れる心と禁忌の魔法陣 ―

◆嵐の前の静けさ

護衛任務まで、残された時間は二週間。

王女クレアを守るための重責を前に、グランたちはそれぞれの方法で日々を過ごしていた。

剣を振る者はひたすら剣を振り、魔法を操る者は己の魔力を研ぎ澄まし、情報を扱う者は古文書を繙く。

その姿は、まるで嵐の前の静けさ。誰もが無言のままに、この任務の重さを受け止めていた。


◆転生魔法の研究

その日、蓮は一冊のノートと数冊の古文書を抱え、グランの部屋を訪れた。

「グラン。前に言ってた“転生魔法”の話だけど……魔法陣を見たことがあるって言ってたよな? 本当か?」

椅子に腰掛けていたグランは、軽く顎で隣を指し示す。

「ああ。本当だよ。間違えてなければ……だけどな」

そう言うと、机の上にノートを広げ、ペンを走らせ始めた。

蓮は隣に腰を下ろし、その手の動きを息を詰めるように見つめる。

やがて描かれた魔法陣は、既知のどれとも異なっていた。

複雑な幾何学の円、意味不明な文字列、それらを繋ぐのは既存の規則ではなく、まるで未知の論理。

「これが……」

蓮は無意識に息を呑んだ。ただの魔法ではない――それだけがはっきりとわかる。

グランは蓮の反応を横目に、もうひとつの陣を描いた。

「で、こっちが竜族の転生魔法の魔法陣。以前、俺が直接見たものを再現した」

描かれた陣は最初のものに似ていながら、いくつか明確な違いがあった。中央の印、外周の文字列、そして陣全体から感じられる“雰囲気”。

「これは古代竜族の言語で書かれているから、意味がわかる。“魂の核を保ちながら次代へ継承する”……竜族の転生魔法は、死の間際に魂を別の肉体へ写し、新たな命として再生する。だが必ず代償がいる。記憶、感情、時には魔力そのもの……すべてを持っては生まれ変われない」

「代償……」

「そうだ。だからこそ、決断を迫られる魔法なんだ」

グランはペンを置き、最初に描いた魔法陣を指で叩いた。

「だがこれは違う。構造は似ているのに、言語が全く別物。二千年前、魔王だった俺が古代の国を訪れた際、王族の書庫で偶然見つけた資料に載っていた。ほんの一瞬見ただけだったが……図形として焼き付いていた」

蓮は目を凝らし、深く頷いた。

「……正体は不明。でも確かに、竜族のものとは違う。けれど……これで前に進める。ありがとう、グラン」

「無理するなよ。深入りしすぎたら、戻れなくなるぞ」

「大丈夫さ。俺は……あの子のためにやるって決めたんだ」

蓮の瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。


◆ナツの葛藤

その頃――屋敷の裏庭。ナツはひとり、石に腰掛けて空を見上げていた。

(人間って……なんなんだろう)

彼の心は、ここ最近ずっとその問いに囚われていた。

グラン。セレナ。こはる。

彼らと過ごす時間は温かく、優しく、恐怖とは無縁だった。

(俺は魔族だから、人間を憎むよう教わってきた。怖い存在だと……でも、国王も、グランの両親も、俺を受け入れてくれた)

その優しさが、逆に怖かった。

(間違っていたのは……俺たち魔族の方なんじゃないか……?)

ふと気配を感じ、振り返るとユエが立っていた。

「どうしてそんな顔をしてるの?」

「……わかんないんだ。俺、何を信じればいいのか……」

ユエは静かに彼の隣へ腰を下ろす。

「人間は怖いって教えられてきた。でも今は……人間の方が優しい気がして、混乱してるんだ」

「それは混乱じゃなくて、“気づき”よ」

ユエの声は穏やかだった。

「魔族の教えと違うと感じても、それは裏切りじゃない。自分の意思で今の居場所を選んでいるんだから。優しさに触れ、誰かを信じてみたいと思った。それが裏切りだというなら……その裏切りを、私は誇っていいと思う」

ナツの瞳が揺れ、やがて小さく笑みを浮かべた。

「……ありがとう、ユエ」

「ふふ。どういたしまして」

空を仰いだナツの視界は、さっきよりも少しだけ明るく見えた。


◆出発の刻

そして――出発の日。

グランたちは王城近くの転移門に集合し、護衛任務の目的地である ゼルマール へと向かう準備を整えていた。

そこには王女クレアの姿もあり、彼らを待ち受ける“真実”が、静かに幕を開けようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ