第64話 護衛任務 ― 剣聖の国ゼルマールへの旅立ち ―
◆王族たちの集結
戦いの余韻がまだ残る町に、再び国王ノアからの召集が下った。
王城の会議室に集められたのは、国王ノア、王妃ミシェル、第一王子ライアン、第二王子ユリウス、そしてクレア王女。
さらに国王付き秘書やギルドマスターも同席していた。
「まずは改めて……この国を救ってくれたこと、心より感謝する」
ノア国王の言葉に、グランたちは深く頭を下げた。
だがその直後、国王の声は一層の重みを帯びる。
「しかし……この機会に、聞かせてほしい。魔族のこと。今の魔王国の状況……そして、二千年前に起きた真実を」
◆真実の告白
グランは一同を見渡し、静かに語り始めた。
「二千年前、戦争を始めたのは魔族側でした。当時の俺――魔王グラディオンの判断です。人間と魔族の争いの火種を蒔いたのは、俺自身です」
その言葉に、会議室は息を呑んだ。
だがグランは逃げず、さらに言葉を続けた。
「もちろん、魔族の中には今でも人間を恨む者がいます。それを“無い”とは言えません。ですが、今の魔族たちは冷静に現実を見つめ、共存を望んでいる。俺は今、彼らの代表としてここに立っています。どうか……信じてください」
しばしの沈黙の後、ノア国王はゆっくりと頷いた。
「この前の戦いで、竜族やレイスまでもが我らに加勢した……その行動が何よりの証拠だ。信じよう」
ミシェル女王が柔らかく微笑む。
「それなら、私たちとしても皆さんにきちんと褒美を用意しなければなりませんね」
その場の空気がわずかに和らいだ。
◆新たな任務
だが国王はすぐに顔を引き締めた。
「実は――今度、“ゼルマール”への訪問が決まった。我が妻ミシェル、第一王子ライアン、そしてクレアが同行する。だが、あの国が何を考えているかは分からない。国を空ける以上、最大限の警戒が必要だ。……そこで、君たちに護衛を頼みたい」
突然の依頼に、グランたちは顔を見合わせた。
その時、蓮が静かに口を開く。
「――それは、好都合かもしれない。“あの人”はゼルマールにいるはずです。なぜなら、あの人は――剣聖の末裔だから」
「なに……!?」
グランの声が鋭く跳ねた。
「どうしてそれを知っている?」
蓮は目を伏せ、重く語る。
「旅の途中で出会ったんだ。俺の存在はすぐに見抜かれた。帰還方法を探していると話したら、“知っている”と。さらに、“ひかり”の今の姿を見せられたんだ。……その時、信じてしまった。あの人の言葉を。あの力は、二千年前の剣聖をも凌駕していた」
会議室に緊張が走る。
蓮の表情は苦悩に染まっていた。
「……俺がついてしまったのは、弱さだ。けど、今は違う。だから行くべきだと思う。あの人の正体と目的を、知るために」
ノア国王が低く言葉を継ぐ。
「今回の訪問には、ゼルマールの王子の“婚約”という名目がある。相手は、勇者の国に属する“聖女の国”の姫だと聞く。……だが、表向きにすぎぬ可能性もある。何か裏がある」
その言葉に、グランは深く頷いた。
「了解しました。……護衛任務、受けさせていただきます」
その瞳には、強い決意の光が宿っていた。




