第62話 戦乱の幕開け ― 絆と逆転の一撃 ―
◆戦場の狂乱
燃え盛る戦場。怒号と悲鳴、そして魔物の咆哮が交錯し、地獄絵図のような光景が広がっていた。
ヴァンパイアクイーンと化したセレナは、長く艶やかな黒髪を風に靡かせ、漆黒の翼を大きく広げる。冷ややかな視線と共に振るわれる魔力は、瞬く間に数十体の魔物を氷の棺へと封じていった。
「……ごめんね、グラン。私は……また、化け物に戻っちゃった。でも……この国は、あなたの大切な場所。だから――守らなきゃ」
その隣では、ナツが悪魔の本性を解放していた。紅い角、黒い羽根、燃え上がる魔力の尾。悪魔の力が奔流となって魔物を焼き尽くす。
「……こんな姿、できれば見せたくなかった。でもセレナが前に進んだんだ。私も――戦うよ、仲間として!」
こはるもまた、セレナの覚悟を受け止め、剣を握る手に力を込めた。
「……あたしは獣人。昔は奴隷だった。でも、今は違う。グランの仲間だから。守るよ、この場所と、家族を!」
三人は互いに声を掛け合いながら連携し、次々と魔物を撃破していく。
だが――それでも数千という圧倒的な数の前に、限界は近づいていた。
◆絶望と希望
避難所近くにまで迫る魔物の波。その最前線には、グランの両親の姿があった。
「リオさん、あれを見て……! あの黒い翼の……」
「……セレナちゃん。あなた……どうして、こんな……」
母レナの声は震えていた。だがセレナはその視線をまっすぐ受け止め、涙をこらえて叫ぶ。
「ごめんなさい。でも、私は……あなたたちを守るために、戦ってるの!」
その時――空気が震えた。
空に巨大な魔法陣が広がり、重力が一気に変化する。圧倒的な力で数百の魔物が地に伏せた。
「――戻ったぞ、皆!」
グランの声と共に、フェンリルと蓮の姿が戦場に現れる。
グランが空中から手を翳すと、重力魔法が発動し、魔物の群れを圧死させた。
そこへ、さらに白銀の巨影が天より舞い降りる。
「ギィイイイイイイッ!」
白い竜が放つ聖なるブレスが大地を駆け抜け、魔物を焼き尽くす。
続いて、黒き霧の中から無数のレイスが出現。
「……我らが主より命を受けた。この地を、守る」
怨霊の群れが魔物へと突撃し、魔力を吸い取りながら消し去っていく。
さらに空では妖精たちが風に乗り、魔物たちの感覚を撹乱。敵を同士討ちへと導き、戦場は混乱に包まれた。
最後に姿を現したのは、魔族の代表――ユエ。
「さあ、最後の力を貸してあげるわ。――これで、皆を守りなさい!」
ユエが三人に向かって強化魔法を放つと、その身体は輝きに包まれた。
「ユエ、来てくれたんだ……!」
「これが……仲間……」
「今なら、負ける気がしないね!」
ナツ、セレナ、こはる――三人は歓声を上げ、戦意を新たにする。
戦局は一気に逆転した。
そして――魔物の群れは完全に壊滅した。
国を覆っていた暗雲が晴れ、静寂が訪れた時、魔族たちは何も言わず姿を消していった。
◆戦後の語らい
その夜。
戦いを終えたグランたちは、公園のベンチに腰を下ろし、疲労の色をにじませながらも静かに安堵の息をついていた。
「なあ、蓮……そろそろ聞かせてくれないか。君の過去のこと。全部とは言わないけど……どんな想いでここに来たのか」
しばし沈黙したのち、蓮はぽつりと語り始めた。
「……俺は、高校生の時にこっちに来た。大切な人と、“ひかり”って子と一緒にいたんだ。でも……守れなかった。異世界の力を目覚めさせた代わりに、彼女のもとから消えてしまった。ずっと……後悔してた」
拳を震わせる蓮。
「それからずっと帰還方法を探してた。でも見つからない。あの人に“知っている”って言われて協力して……けど、裏切られた」
グランは微笑み、立ち上がる。
「……なら、俺たちも一緒に探そう。帰還方法。な、皆?」
セレナも、こはるも、ナツも強く頷いた。
「……それに、幸いにも俺は――蓮がかけられていた転生魔法の魔法陣の形を知ってる」
「……えっ?」
蓮の瞳が大きく見開かれる。
「使ったことはないし、詠唱も知らない。けど……知ってるだけでも、一歩進んだろ?」
やわらかな夜の光に照らされ、蓮の頬にかすかな笑みが戻った。
「……もしかしたら、また会えるね。ひかりに」
グランの言葉に、蓮は静かに微笑んだ。




