第61話 戦乱の幕開け ― 女王の覚醒 ―
◆迫る災厄
国内では警報が鳴り響いた。
空を裂くような轟音、城下全体に響き渡る鐘の音。
「確認された魔物の数、Sランク以上が千を超えます! 市街地への侵攻は時間の問題です!」
緊急報告が飛び交う中、ナツとこはるは真っ先にそれぞれの家族の元へ走っていた。
「お父さん、お母さん! こっちに来てください! すぐに避難を!」
こはるは叫びながら、両親の手を取って避難所へ導く。
「こはる……すまない……頼んだぞ」
父が震える声で娘に託すと、こはるは歯を食いしばって頷いた。
一方セレナは、グランの両親の元へ飛び込んでいた。
「リオさん、レナさん、こちらです。私がご案内します」
「セレナちゃん……でも、あなたは……」
「大丈夫です。絶対に守りますから!」
避難を終えた三人は急ぎ王城へと向かい、作戦会議に参加する。
地図と資料が広げられた部屋。残された騎士団と魔道士たちが集う中で、セレナは力強く言った。
「私たちも戦わせてください。この国を守りたい」
その言葉は受け入れられ、三人は各部隊と共に城壁付近へ配置された。
◆戦場にて
やがて、襲い来る魔物の大群が地平を覆った。
黒雲のように押し寄せるその姿は、まるで絶望の化身。
「これは……強すぎる……っ!」
「数が多すぎるよぉぉ!!」
剣と魔法を振るいながらも、三人は次第に追い詰められていく。
汗が頬を流れ、腕が重くなる。疲労が積み重なり、このままでは持ちこたえられない。
その時――セレナの胸中に、決断の声が響いた。
(……仕方ない。これを使えば、私は……でも、今は、この国を守らなければ)
「ヴァンパイアクイーン、解放――!」
闇の奔流がセレナを包み、背には漆黒の翼が広がった。紅の瞳が闇夜に輝き、圧倒的な威圧感が周囲を覆う。
「私は……終わったら、この国を出ていく。けれど、それでも、今だけは……!」
女王の風格を纏ったその姿は、戦場の光景を一変させた。
◆仲間の覚醒
続いてナツが声を張り上げる。
「主様の家族を、守る……! それが、ボクの使命だもん!」
小さな体が膨大な魔力に包まれ、悪魔本来の姿へと変貌する。黒き角が伸び、背には漆黒の翼が広がり、圧倒的な魔力が周囲を震わせた。
「魔、魔族も現れたぞーっ!」
騎士たちの叫びが広がる。
だが、次の瞬間――。
クイーンとなったセレナと、悪魔の姿となったナツが並び立ち、次々と魔物をなぎ払う姿に、人々は息を呑んだ。
「……ちがう。彼らは俺たちの味方だ! 援護しろ!」
誰かの声が広がり、兵たちは恐怖を越えて奮い立った。
◆救援者ユエ
その時、戦場に一人の女性が現れた。
「助太刀に参りました」
ユエだった。
「あなたたち三人に強化魔法をかけます。その代わり、踏ん張ってください」
柔らかな光が三人を包み、疲労が霧散していく。力が戻り、再び剣と魔法に力が宿る。
「私は助っ人を呼びに行きます。それまで、頼みましたよ」
ユエは風のように去り、再び戦場は三人と兵たちの奮闘に託された。
そしてその時――ヴァンパイアクイーンとなったセレナと、悪魔へと変貌したナツの姿を、クレアとノア国王が遠くから見つめていた。
紅と黒に染まった戦場で、女王と悪魔が人々を守る姿は、確かに希望の光となっていた。




