第60話 戦乱の幕開け ― 勇者パーティー再臨 ―
◆仕組まれた罠
グランたちとSランク冒険者、王国騎士団、宮廷魔道士らは、数日をかけて「魔物出現の報があった地」へ到着した。
だが――そこに、魔物の姿は一体たりともなかった。
「……おかしいな、魔力の痕跡もほとんどない」
Sランク冒険者のひとりが眉をひそめ、辺りを見渡す。
不意に空間が歪み、一陣の風とともに“あの使い人”が現れた。
「これはこれは……皆さまお揃いで。お疲れさまでした、蓮さん。計画どおり、ことは順調に進んでおりますよ」
「貴様ァァァァッ!!」
フェンリルが激昂し、毛を逆立て、地を割る咆哮を放った。
「フェンリル、待て」
グランが手を伸ばし、かろうじて彼を制止する。
「……魔物は、どこだ?」
問いかけるグランに、使い人は薄く笑った。
「魔物? あぁ……彼らは今ごろ、あなた方の国に到着しているころでしょう。恐らく、もう交戦が始まっているのでは?」
「なっ……!」
◆勇者パーティーの再臨
使い人は口角を吊り上げ、腕を広げる。
「そして蓮さん、紹介しましょう。こちらが“新たなる勇者パーティー”の皆さまです。タンク、魔道士、聖者、そして勇者――完璧な構成。しかも、全員が神の恩恵を受けております」
淡い光の中に、四人の姿が現れる。
勇者リオネル:神剣を授かりし光の戦士。背には聖なる輝きを宿す剣を負い、瞳には迷いなき決意が宿る。
魔道士カミル:全属性を操る万象の魔術師。手にした杖からは絶え間なく魔力が漏れ、周囲の空気を揺らしていた。
タンク(重装兵)バルガン:鉄壁の守護者。分厚い盾を構えたその巨体は、まさに要塞の如し。
聖者アリス:神託を受けし巫女。白衣に金糸の刺繍が施され、柔らかな微笑みとともに奇跡の光をまとっていた。
その威容に、場の空気が一変する。
「……そんな話、聞いてない。どういうことだ……!?」
蓮が目を見開き、一歩踏み出す。
「当然です。あなたはもう、用済みなのですから」
「なに……?」
「あなたの魔法の才も、実に魅力的でしたよ。けれど――あなたは最後まで“あの人”を信じていなかった。その時点で、あなたは駒止まりだったのです」
使い人の瞳には、捨てられた玩具を見るような冷たい光が宿っていた。
◆残酷な真実
「そして、あの人から最後の言葉を預かっております」
使い人は楽しげに口元を歪める。
「『今までご苦労さま。帰還方法は――分かりませんので、あとは自分で探してくださいね』。では、さようなら」
次の瞬間、使い人と勇者パーティーは空間ごと揺らぎ、淡い光の中へと消え去った。
「……っ、は……あ……ああああ……っ」
蓮は膝から崩れ落ち、その場に泣き伏した。
目の前に差し出されていた“帰還”という希望――。
それが虚構だったことに、心が砕かれたのだった。




