表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/95

第58話 夜の対話と動き出す陰謀 ― 勇者の影 ―

◆祝宴の夜

蓮との激闘を終えたグランたちは、イーストランド王城へと戻った。

大広間のテーブルには豪華な料理が並び、かつてないほどの賑わいが広がっていた。

「このスープ、うまっ! なにこれ!?」

こはるは目を輝かせながらスプーンを運ぶ。

「ほら、こはる。食べ過ぎると後で苦しくなるぞ」

セレナが笑って注意を促す。

「いいじゃん! いっぱい動いたんだもん!」

こはるは満面の笑みで食べ続けた。

「……この肉、なかなか香ばしいな。焼き加減も絶妙だ」

フェンリルは尻尾を揺らしながら肉を頬張る。

「……おいしい……」

ナツもまた、ちょこんと座りながら静かに料理を味わっていた。

明るく笑い合う仲間たちを見て、グランは微笑を浮かべつつも、心のどこかで冷静なまなざしを保っていた。

蓮も最初は静かに杯を傾けていたが、やがてふと立ち上がる。

「少し、外の空気を吸ってくるよ」

「酔っちゃったの?」

セレナがいたずらっぽく声をかけると、蓮は肩をすくめて笑った。

「たぶん、そうかもね」

そう言い残し、蓮は中庭へと姿を消した。


◆中庭での対話

夜の中庭。

涼しい風が草を揺らし、月光が静かに石畳を照らしていた。

蓮はひとりベンチに腰掛け、空を仰ぎながらつぶやく。

「……どうすれば、帰れるんだろうな。……会いたいよ、ひかり……」

その声を背後から聞いたグランは、静かに歩み寄った。

「大丈夫かい?」

「……うん。少し酔っただけ。たぶん」

蓮は苦笑し、グランは隣に腰を下ろす。

「……2000年前、蓮たちに敗れて、俺は転生した。最初は何も分からなかった。でも、新しい仲間ができて、いろんなことを学んだ。……蓮は、この2000年、どうしてた?」

「……魔法の勉強をしてたよ。世界を巡ったり、国を作ったりもした。正直、もうやめようかなって思ったとき、君の魔力を感じて……これは、と思ったんだ。だから転生するまで待ってみた」

「そっか……これだけ記憶を保ってるんだもんな。……俺は蓮と敵だったけど、今は“大切な仲間”だと思ってる。皆も同じ気持ちさ。だから蓮、辛い時や迷ってる時は、俺たちを頼っていいんだよ」

グランの言葉に、蓮は目を伏せ、わずかに微笑んだ。

「……ありがとう」

その一言を残し、グランは宴の席へと戻っていった。

蓮はその背中を見送りながら、胸の奥で言葉にならない思いを抱え、静かに目を閉じた。


◆動き出す陰謀

深夜。

蓮は無人の部屋で“あの人”と魔法通信をつないでいた。

「……グランたちは数日中にこの国を発つだろう。俺もそのあと帰国するつもりだ。……彼らの力は、想像以上だった。あなどれない」

『そうか。それは貴重な情報だな』

あの人の声はどこか満足げだった。

『ちょうどいいタイミングだ。――四季連合国、そして剣聖の国が正式に協定を結んだ。次の段階に進む準備が整ったよ』

「……四季連合国と剣聖の国まで、動いたか……」

『ああ、そして蓮。ひとつ朗報がある』

「……何?」

『“勇者”が現れた。しかも、こちら側についている。――これで、伝説の“勇者パーティー”が再び組まれそうなんだ』

蓮は表情を変えぬまま、その言葉を受け止めた。

しかし眉の奥には、かすかな影が差していた。

『そうなれば、蓮――君が元いた世界に“帰る道”も、きっと開かれるはずだ』

「……本当にそうなら、いいんだけどね」

呟きは夜の静寂に溶け、通信は断たれた。

残されたのは、月明かりに照らされた蓮の孤独な横顔だけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ