第57話 蓮との戦い ― 禁忌と竜の系譜 ―
◆最奥の対峙
ダンジョンの最奥、重々しい扉を抜けた先に、ひとりの青年が静かに佇んでいた。
――蓮。
「僕が相手だよ。本気でやるからね」
その言葉と同時に空気が一変する。
張り詰める魔力、全身を刺すような殺気。蓮は無駄のない構えをとり、圧倒的な魔力を解き放った。
「……っ! 本気の“殺気”……」
フェンリルが低く唸る。
「まさか、ここまでの力を隠してたなんて……!」
セレナの額にも冷や汗が滲んでいた。
◆蓮の猛攻
轟音と閃光。
大地が裂け、石壁が砕け、空間そのものが震える。
蓮の放つ魔術は高速かつ重厚で、剣技と組み合わさることで、まるで嵐のような連撃を生み出していた。
さらに、常人の数倍はあろう反応速度――まさに“チート級”と呼ぶにふさわしい。
「くっ……なんなんだ、この速さ……!」
こはるの斬撃がかすめるが、紙一重でかわされる。
ナツが放った地脈を穿つ魔法も、軽やかな跳躍で回避され、逆にカウンターの火球を浴びせられる。
「これが……蓮の本気……!」
セレナが必死に結界を張り、仲間を守る。
◆グランの問い
仲間たちが押される中、グランが一歩踏み込み叫ぶ。
「なぜこんなことをする! 蓮ッ!」
しかし返ってきたのは冷ややかな声だった。
「敵に理由を語るほど、僕は甘くないよ」
「敵……なのか、俺たちは……!」
その言葉に、グランは唇を噛みしめ、静かに力を解放する。
背中に淡く黒い紋章が浮かび上がり、竜族の転生によって宿した“黒龍の力”が呼び覚まされた。
空気が一変する。
その場にいる誰もが、竜族特有の重厚な威圧を感じ取った。
◆転生魔法の違い
蓮は額に汗を滲ませながら、グランの放つ波動を凝視した。
「……やっぱり、違うんだな」
彼は剣を構え直し、低く呟く。
「僕が使う“転生魔法”は、人が理を歪めて作り出した術だ。命を削り、他者を無理やり引き寄せる……常に不安定で、どこか濁った響きがある。
けれど君のそれは……循環だ。大地や空気と同じように、世界の理に沿って流れている。
だから安定していて、力強いのに……どこか優しいんだ」
グランは答えず、ただ拳を握りしめて前へと進む。
その拳から放たれる黒龍の魔力は、確かに“命を喰らう禁忌”ではなく、“命を繋ぐ理”に根ざしたものだった。
◆総力戦
「――行くぞ、みんな!」
号令と共に仲間たちは動き出す。
こはるが先陣を切り、風を纏った剣閃で蓮の動きを誘導。
フェンリルは獣のような機敏さで背後を取り、牙に炎を纏わせて牽制。
ナツは全体強化と同時に雷の槍を放ち、セレナは蝙蝠の群れを呼び出して蓮の視界を遮る。
その合間を縫い、グランが地を踏み砕きながら突進し、拳に竜の力を集中させる。
「――これが、俺たちの“力”だッ!」
黒い奔流を纏った一撃が空間を裂き、蓮の防御を突き破った。
轟音と共に蓮の身体が吹き飛び、地面を転がる。
◆戦いの終わり
静まり返る中、蓮はゆっくりと立ち上がり、口元に苦い笑みを浮かべた。
「やっぱり……実力は十分だ。……合格だよ」
「……は?」
セレナが目を丸くする。
「な、なんだよそれ……」
フェンリルが眉をひそめる。
「まさか……特訓の続き、なんて言わないでしょうね」
セレナが半ば呆れた声を漏らす。
蓮は、あくまで自然体のまま答えた。
「いや、ほんとに強くなったよ。……見事、見せてもらった」
その場の緊張が解け、仲間たちは安堵の息を吐く。
だがグランだけは見逃さなかった。
――蓮が背を向けた瞬間、唇を噛み、涙をひとすじだけ流したことを。
(……やっぱり、何かを背負っているんだな)
グランはその背中を見つめ、何も言わず拳を握りしめた。




