第55話 ダンジョン攻略 ― 迫る影と待ち受ける蓮 ―
◆蓮の仕掛け
歓迎会の翌日、蓮はグランたちをとある場所へと案内した。
「ここは僕が初めて作ったダンジョンだよ。最初は試作みたいなものだったけど、今ではちょっとした観光地にもなってる。今日はここに挑戦してもらおうかな」
軽く笑う蓮に、セレナが不安そうに眉をひそめる。
「蓮、あなたは一緒に来ないの?」
「うん、僕はちょっとやりたいことがあるから、今回は皆だけで行ってきて。難易度はSランク相当にはしておいたよ。ま、今の皆なら平気だよ」
その言葉を信じ、グランたちは頷き合い、迷宮の入口へと足を踏み入れた。
見送った蓮は、背後に手をかざして通信魔法を起動する。
「……入ったよ。ダンジョンに」
低く放たれた声は、“あの人”へと確かに届いていた。
◆成長の証
ダンジョン内部は、複雑に入り組んだ迷路のような通路が続く。
だが、半年に及ぶ特訓を経た仲間たちは、確かな成長を示していた。
「魔力の流れが読める……こっちの道だね」
セレナは闇の気配を敏感に察知し、迷わず仲間を導いていく。
「へへっ、こいつらじゃもう俺の相手にもならねえな」
フェンリルは襲いかかってきた魔物を片手で引き裂き、鼻で笑った。
「やっぱり、この剣……馴染んできた。もっと動ける!」
こはるは剣を振るうたびに風を巻き起こし、複数の敵を一撃で薙ぎ払う。
「僕も、負けない……よ!」
ナツは小声で詠唱を紡ぎ、緻密に制御された魔力で魔物を次々と撃破する。
グランは最後尾で皆の背を守りながらも、時折その手で一掃し、安定した歩みを続けていた。
「……順調だな」
確かな手応えを感じながら進む一行。だが、空気は徐々に重く変わっていった。
◆警告
最深部へ近づくと、辺りは静まり返り、張り詰めた気配が漂う。
その時、ボス部屋の手前にひとりの男が立ちはだかった。
「お前は……王女護衛の時に現れた、“あの人”の使いか」
グランが目を細めると、男は不気味に笑う。
「警告だよ。たまたまこのダンジョンに入るのを見かけてね。“あの人”はもうすぐ動き出す。余計なことはしないほうがいい。“こちら側”に来るか、大人しくしているか……賢明な選択を勧めるよ」
「待て!」
グランの声を振り切り、男は霧のように消え去った。
不穏な影だけを残し、再び静寂が訪れる。
◆待ち受ける者
緊張を抱えたまま、一行はボス部屋へと足を踏み入れた。
そこにいたのは――蓮。
石造りの玉座のような椅子に腰を掛け、ゆっくりと立ち上がる。
「僕が相手だよ。本気でやるからね」
その声には、いつもの軽さとは違う、覚悟を秘めた響きがあった。
仲間たちは驚愕と困惑の入り混じる視線を蓮に向ける。
戦いの幕が、静かに開こうとしていた。




