第51話 休日のひととき ― 三つ巴の昼食会 ―
◆町へお出かけ
久しぶりに訪れた休日。
グランはセレナとこはるに誘われ、町へと足を運んでいた。
「買い物、付き合ってください」
「たまには皆で出かけましょうよ」
二人から同時に声をかけられた時は驚いたが、断る理由もなく、結局は苦笑しながら頷いた。
「……なんか、偶然かと思ったけど」
「狙った? 狙ってないよね、こはるちゃん」
「う、うん……べ、別に変な意図は……」
互いに視線を逸らす二人。その仕草に、グランは思わずため息をつきながらも頬を緩める。
町では、洋服店やアクセサリー店、菓子店を巡り、穏やかな時間が流れた。
こはるはリボンのついた髪飾りを手に取り、セレナは新しいマントを吟味しながらも、ちらちらとグランの反応を伺う。
◆三つ巴の昼食会
昼食は町で人気の食堂へ。注文を終え、談笑していたその時――。
「……なんだか、店内がざわついてる……?」
扉が開き、鮮やかな衣装をまとった少女が現れた。
周囲の客が驚きの声を上げる中、彼女はまっすぐに歩み寄り、ためらいなくグランの隣へ腰を下ろす。
「グラン様、お帰りなさいませ。……私も、ご一緒してもよろしいですか?」
――クレア王女だった。
「会いたかったんです。帰ってきてくれて、本当に嬉しいですわ」
優雅な微笑みと共にそう告げるクレアに、セレナとこはるの眉がぴくりと動く。
「……王女様、ここは一般の食堂です。まさかこんな所で会うとは思いませんでしたわ」
「べ、別に歓迎しないわけじゃないけど……突然だと、びっくりしますよね」
「ふふ……では遠慮なく、混ぜていただきますわ。ね、グラン様?」
こうして穏やかな食事は、一転して“三つ巴の昼食会”へと変貌したのだった。
◆川辺の語らい
その頃、フェンリルとナツは町外れの川沿いを歩いていた。
「フェンリルさん、今の主って……昔と比べて、変わったんですか?」
問いかけに、フェンリルは川辺の草地にごろりと寝転び、空を仰ぐ。
「変わったさ。昔の主はな……もっと尖ってた。荒くれてたって言ってもいい。力で黙らせることも多かったしな」
「……そうなんだ」
ナツは石を川に投げながら耳を傾ける。
「戦争だって起こしたよ。だがな、それは民のためでもあった。人間が魔族を踏みにじる時代だったからな……ただ、感情的だったのも確かだ。今みたいに考えて動くってより、本能で突っ走ってた」
一瞬の沈黙の後、フェンリルは目を細め、笑みを浮かべる。
「でも、今の主は違う。本当に変わったよ。……成長したんだろうな」
ナツはにこりと笑い、声を弾ませる。
「やっぱり……魔王様って、すごいね」
「まあな。……俺も、ついていく理由はそれだけで十分だ」
やがて心地よい風が川辺を撫で、二人――一人と一匹は静かに眠りについた。
鳥のさえずりと川のせせらぎが、穏やかな昼下がりを彩っていた。




