第50話 図書館にて ― 帰れぬ真実 ―
◆報酬の分配
コカトリス亜種討伐を終えたグランたちは、冒険者ギルドで任務の報告を済ませた。
受付係は驚きの表情で言葉を漏らす。
「コカトリスの亜種がこれほどの数……しかも一日で全滅とは。さすがですね」
仲間たちは笑みを浮かべつつも、淡々と報酬を受け取った。
半年に及ぶ特訓の成果を確かめられた充足感が胸にあったからだ。
グランは受け取った金貨を仲間に分配し、残りを懐にしまう。
「この残りは魔王国に送ろう。ユエが時々こちらに来るだろうし、その時に渡せばいい」
誰一人、異を唱える者はいなかった。
◆蓮の願い
その夜。
自宅での夕食を終え、くつろぐ時間の中で、蓮はふいに席を立ち上がった。
「レンさん……この町の図書館に、魔導書はありますか? もしよろしければ、明日、少しだけ見せていただけないでしょうか」
グランの父レンは意外そうに眉を上げたが、すぐに苦笑を浮かべて頷いた。
「あるにはあるが……昔の本も多い。埃っぽいが、それでも構わないか?」
「はい。ぜひ拝見させてください」
蓮の返答は真剣そのもので、胸に熱を秘めていた。
◆図書館にて
翌朝。
蓮は静かな図書室へと足を踏み入れた。
窓から差し込む朝陽が埃を照らし、本棚の影が床に長く伸びている。
彼の手は迷うことなく、分厚い魔導書へと伸びた。
探しているのはただ一つ――「転生魔法」。
かつて自分をこの世界へ召喚した術。
そして、地球へ帰る可能性を秘めた唯一の鍵。
“あの人”の言葉が脳裏を過る。
――『私に協力してくれるなら、あなたを元の世界に返しましょう』
その約束がどれほど甘美で、どれほど重く彼を縛ってきたか。
だが同時に、あの人は嘘を弄する存在でもある。信じるわけにはいかなかった。
だからこそ、自分自身で確かめるしかない。
◆突きつけられた真実
どれほどの時間が過ぎただろうか。
古びた革表紙の魔導書を開いた瞬間、蓮の視界に衝撃の記述が飛び込んできた。
「我らは魔王討伐のため、“転生魔法”を発動した。
異界より“蓮”という青年を召喚。
それは莫大な魔力と命を代償にした儀式であり、この魔法には帰還の術は存在しない。」
ページをめくる手が止まった。
心臓が鼓動を速め、耳鳴りのように頭の中に響く。
「……返す術は、ない……?」
震える声が、静寂の図書館に溶けていった。
全身から力が抜け、膝が折れそうになる。
それでも本を閉じ、ゆっくりと立ち上がった。
◆帰れぬ現実
図書館を後にし、裏庭へ出る。
朝の風が頬を撫でたが、その冷たさも、今の蓮には何の慰めにもならなかった。
「……だったら、俺は――何のためにここに……」
掠れた声は、風にかき消されていく。
地球に帰る術はない。
ならば、この世界で自分は何を成すべきか。
その問いだけが、重く心に残った。




