第47話 黒龍の再覚醒
◆修行の地へ
グランは白龍のシスと共に、険しい山奥へと足を踏み入れた。
断崖絶壁が連なるその場所は、濃密な魔力が渦巻き、二千年前に黒龍として修行を積んだ聖域だった。
「ここでいいな」
「……ああ」
短いやり取りのあと、グランは剣を抜くのではなく、まずは素振りから始めた。
剣を振るうたびに、筋肉にかつてない負荷がのしかかる。
「基礎体力、落ちてるな。剣の重みで腕が鈍る」
シスが鋭い目で指摘すると、グランは苦笑を浮かべる。
「当たり前だ。人間の肉体でここまでやってきたんだ。むしろ大したもんだよ」
そう言いつつも、シスは容赦がなかった。石を魔力で弾丸のようにぶつけ、爆風を起こし、徹底的に体を追い込ませる。
それでもグランは黙々と耐え続けた。魔王であった頃から、彼は誰よりも努力を惜しまぬ存在だったのだ。
◆闇魔法の再構築
「次は魔術だ」
「いいぞ。久々に闇魔法、試したい」
人間の器では、黒龍としての禍々しい魔力を制御するのは困難だった。
だがグランは、二千年の眠りと転生を経て、その力を改めて構築しようとしていた。
「お前の闇魔法、荒いけど芯はある。だが“制御”が足りない」
「うん……」
シスの叱咤を受けながら、グランは魔力を練り直す。
大地を穿つ闇の槍、空間を歪める暗黒の斬撃――。
荒々しかった魔力は次第に整えられ、鋭さと重みを増していった。
◆黒龍の核
数週間後――ついにその瞬間が訪れる。
「……グラン。お前の体内に、“竜の核”が目覚めつつある」
「核……黒龍の核か?」
「ああ。完全な復活ではないが、“輪廻転生の核”だ。竜族が寿命の終わりに用いる秘術……本来なら魂を次代に繋ぐためのものだが」
「でも今、俺は人間だ」
「そうだ。だがだからこそ、中途半端に残っていた竜の魂が、お前の修行と意思に反応して覚醒したんだよ」
刹那、グランの体に黒い魔力の紋様が浮かび上がり、吹き荒れる風が凪いだ。
その身から迸る黒龍の魔力は、周囲の大地を震わせるほどに圧倒的だった。
「これが……黒龍の……」
「完全じゃないが、間違いなく“お前自身の力”だ」
グランは拳を握りしめ、静かに笑った。
「ありがとうな、シス。お前がいなきゃ、ここまで思い出せなかった」
「礼なんていらねぇよ。仲間だろ、俺たち」
二人の間に流れる沈黙は、過去を越えた絆の証だった。




