表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/95

第46話 悪魔の素養と影の契約

◆ユエの指導

特訓が始まって数日後。

ユエはナツを魔族の修練場の奥へと連れてきた。そこは禍々しくも落ち着いた魔力が漂い、かつて多くの悪魔が修行を積んだ由緒ある場である。

「ナツ、今日は“悪魔”としての戦い方を教えるわ」

「うん、よろしくお願いします!」

ナツは瞳を輝かせて頷く。

ユエはゆっくりと手を掲げ、宙に魔力を描いた。黒紫の魔法陣が浮かび上がり、圧倒的な威圧感が辺りを包む。ナツは思わず息を呑んだ。

「悪魔の力は“契約”と“精神”に宿る。支配、強化、混乱、幻惑……相手の心を読むことが鍵よ。そして味方には加護を、敵には呪いを与える」

言葉と同時に魔法陣が脈動し、目に見えぬ魔力の波がナツの体を撫でた。

「まずは、魔力の流れを感じ取ること。それができなければ、相手の精神には触れられない」

ユエの指導は厳しくも的確だった。精神支配の基礎、集団強化、対象の心理を読む訓練……そして、何より“信念”を持つことを求められた。

休憩中、ユエはふとナツに問いかけた。

「ねぇナツ。あなたは、人間や魔族、獣人といった“種族の違い”をどう思う?」

ナツは少し考え、ゆっくりと答えた。

「確かに違いはあるけど、種族って……あくまで“属性”みたいなものだと思う。最終的には“人”だよ。個人として、大切に思えるかどうか……それだけじゃないかな」

その答えに、ユエは目を細めて微笑む。

「……あなたは、やっぱり彼の息子ね」


◆ルシアの訪れ

訓練の合間。ナツが木陰で汗を拭いていると、風に乗って懐かしい声が響いた。

「よっ、ナツ。修行してるって聞いて、見に来てあげた」

振り返れば、そこに立っていたのは銀髪に黒角の少女――ルシア。

小柄ながら引き締まった体、鋭さと優しさを宿す瞳。それはナツの幼馴染であり、幼き頃に淡い恋心を抱いていた存在だった。

「ル、ルシア!? え、なんでここに……?」

「ユエさんに呼ばれたの。『あの子に喝を入れてやって』ってね」

ルシアは歩み寄り、ナツの顔を覗き込む。

「……ふーん。ちょっとは頼もしくなった? それともまだ甘ったれ?」

「甘ったれてないよ!」

頬を膨らませるナツに、ルシアは優しく笑った。

「ま、強くなってよ。私も一緒に戦うことになるかもしれないんだから」

ナツは言葉に詰まりながらも、うれしそうに頷いた。


◆蓮の影

その頃、蓮は誰もいない廃墟に腰を下ろしていた。

昼間は剣も振るわず、訓練にも表向き参加しない。周囲には「のんびり屋の転生者」を演じていた。

だが――誰も見ていない場所では、その表情は一変する。

静かに指先を動かし、地面に小さな魔法陣を描く。そこから漏れる声は低く冷たい。

「……報告。第三段階に移行。半年間、干渉せず。観察続行」

それは“裏側の存在”――“あの人”へと向けられた言葉だった。

蓮は空を仰ぎ、ひとつ息を吐く。

「……けど、本当に何も起きないって保証はないからな。こいつら、思った以上に変わっていく」

彼の瞳がわずかに揺れる。

(……もしかしたら)

胸に芽生えた思いを口にはせず、ただ静かに飲み込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ