第44話 特訓開始 ― セレナとヴィレ編 ―
◆特訓への決意
グランは仲間を全員集めると、真剣な表情で口を開いた。
「……このままじゃダメだと思った。王女護衛のときも、災厄ダンジョンのときも、力が足りないって痛感した。
だから、しばらくここに残って、それぞれ特訓を積みたい。半年間……みんな、つきあってくれないか」
言葉の重みに、一同は驚きながらもすぐに顔を見合わせ、そして頷く。
「もちろん。グランが言うなら、ついていくわ」
セレナが柔らかく微笑み、即答する。
「もっと強くなりたいって思ってたところです!」
こはるが元気よく手を挙げた。
「主の成長は我が誇り。遠慮なく指示を」
フェンリルが厳かに言い、
「やれやれ、こっちも燃えてきた。訓練場でも作るかな」
蓮がにやりと笑う。
こうして、それぞれの特訓が決まった。
グラン → 白龍シスより特訓
セレナ → ヴァンパイアロード・ヴィレから魔術と戦闘法
こはる → 蓮による剣技指南
フェンリル → 蓮が召喚する魔物との模擬戦
◆セレナとヴィレの特訓
翌日。訓練場にて、セレナは静かに目を閉じ、自らの魔力を解き放った。
その姿は一瞬揺らぎ、少女から、大人びた気配を纏う“ヴァンパイアクイーン”へと変貌する。
「ふぅ……やっぱりまだ少し体が重いわね」
「血が足りないのよ。クイーンの力を維持するには、強者の血が必要。
あんたはまだ“少女”の姿の方が楽なんでしょうね」
艶やかな声でヴィレが黒衣を翻す。
「さあ、始めましょうか。今日はまず“基礎魔術”から。あんた、魔力はあるけど……使い方が雑すぎるの」
「ええ、お願いします!」
セレナは胸に誇りを抱き、深く頭を下げた。
ヴィレはコウモリを一匹呼び出し、そこに魔力を流し込む。次の瞬間、小さな爆発が起きて周囲に波紋が広がった。
「これが“血蝙蝠・初式”。基礎だけど、応用すれば群れを操り、敵を撹乱する“蝙蝠陣”になる。
魔力を節約しながら放つには、“感覚”を掴むしかないの」
セレナはその言葉を噛み締め、一匹ずつ呼び出したコウモリに魔力を注ぎ込む。爆ぜる音を繰り返しながら、彼女の制御は少しずつ研ぎ澄まされていった。
◆魅了の力
数日後、ヴィレは新たな課題を与えた。
「次は“魅了”。クイーンとして最も強力な能力の一つよ。視線、香り、魔力、声……全てを混ぜて相手の心を揺らすの」
「……でも、相手の心が揺れてなきゃ意味はないわ。グランに使ってみる?」
「む、無理ですっ!!」
顔を真っ赤にして慌てるセレナ。その反応に、ヴィレは楽しそうに笑った。
「ふふ、可愛いわね。でも覚えておきなさい。クイーンは“冷静と優雅”を忘れちゃだめよ」
◆積み重なる修行
訓練の日々は続く。
“血剣”の生成と自在な操作
魔術と近接戦闘の切り替え
蝙蝠を用いた高機動戦術
魔力の集中と分散による緻密な制御
セレナは食らいつくように学び、成長していった。
ある晩、ヴィレはふと呟いた。
「……貴女の父もそうだった。魔術も力も桁外れだったけれど、それ以上に“仲間を守る覚悟”が彼の魔力を押し上げていたのよ」
「父も……」
セレナは唇を噛み、やがて力強く頷く。
「私もそうなりたい。誰かを守るために、もっと強くなりたいの」
「その気持ちがあれば十分。……あなたはきっと、クイーンを超えるわ」
その言葉に応じるかのように、夜空を裂いて数十の蝙蝠が旋回し、訓練場を魔力のうねりが覆った。
セレナの修行の日々は、確かな成長を刻みつけていった。




