第43話 朝帰りのグラン
◆帰宅
シスと夜通し語り明かしたグランがようやく家へ戻ったのは、夜明けの薄明かりが街を包み始めた頃だった。
冷たい空気を胸いっぱいに吸い込みながら玄関の扉をそっと開ける。
その音に反応して、リビングの扉が静かに開き、セレナが顔を出した。
「……朝帰り、ですか?」
声は落ち着いていたが、わずかに眉を寄せた表情には呆れと心配が入り混じっていた。
「ごめん、少し話し込んでて――」
言い訳を口にしかけたグランの言葉を、セレナは軽く肩をすくめて遮る。
「次からは、せめて一言、連絡してください。あなたに何かあったらと思うと、落ち着いて眠れませんから」
その声音は、まるで年上の姉のように、あるいは家庭を守る母のように優しくも厳しかった。
◆仲間たちの迎え
奥からそっと顔を出したのは、こはるだった。
彼女は両手でコップを持ち、恥ずかしそうに差し出す。
「おかえりなさい。……お水、どうぞ」
その瞳には優しい心配が浮かんでいた。
「ありがとう、こはる」
グランが受け取り口にすると、こはるは小さな笑みを浮かべて頷いた。
さらに壁の向こうから、落ち着いた声が響く。
「お酒に呑まれないでくださいね……」
クレアの声が聞こえたような。姿こそ見えないが、その言葉にグランは苦笑する。
「モテる男はつらいな、グラン」
蓮が茶化すように笑った。
グランが「別にモテてない」と否定するより早く、フェンリルがソファの上からじっと蓮を睨みつける。
まるで「お前が一番怪しい」と言いたげな眼差しだった。
一方、ナツは床に寝転がったまま、無邪気にケラケラと笑っている。
◆安らぎの場所
夜通しの語らいの疲れは確かに残っていた。
だが、仲間たちに迎えられたその瞬間、胸の奥に安堵が広がっていく。
「……ただいま」
短くそう呟いた言葉に、家の中の空気がふわりと温かさを増した。
静かな朝の光と、仲間たちのやり取り。そこには確かに、グランが帰るべき場所があった。




