第42話 竜との特訓の誘い
◆白龍の申し出
朝の静寂が辺りを包む中、グランと白龍のシスは肩を並べ、魔族の集落の外れをゆっくりと歩いていた。
昨夜は夜通し語り明かし、気がつけば空が白み始めていた。
「なぁ、グラン」
シスがふいに声をかけてきた。
その声音には、どこか重みがあった。
「いつ、この場所を発つつもりだ?」
グランは立ち止まり、朝焼けに染まる空を仰ぐ。
「……あと二日ほどで出ようと思ってる。長く滞在しすぎれば、各国への報告が遅れるからな」
「……そうか。だがな」
シスも足を止め、真っ直ぐにグランを見据えた。
「お前、以前より力が落ちている。竜としての力、黒龍の魔力……どれもまだ眠ったままだ。せっかく再会できたんだ。もう少しここに残って、俺と特訓しないか?」
その言葉は冗談ではなく、真剣そのものだった。
◆迷いと決意
グランは微かに目を見開き、そして苦笑を浮かべた。
「……やっぱり、見抜かれてたか。王女護衛の帰りの戦いや、災厄ダンジョンの戦いでも思い知らされたよ。自分の力不足をな」
「なら、なおさらだ」
シスは力強く続けた。
「竜としての基礎を鍛え直し、魔力の扱いを身体に叩き込め。黒龍の再覚醒も狙えるかもしれん」
その真摯な誘いに、グランは深く息を吐き、静かに頷いた。
「……感謝するよ、シス」
「礼は、ちゃんと強くなってから言え」
シスは鼻で笑い、口元に獰猛な笑みを浮かべる。
「まずは基礎体力からだ。筋肉が泣いてるぞ」
「……昔のように鬼教官になるなよ」
「昔と変わらずだ。安心しろ」
◆訓練への一歩
ふたりは再び歩き出す。
朝の陽光がゆっくりと地平を染め、魔族の集落を金色に照らしていた。
その光は、これから始まる苛烈な特訓の幕開けを静かに告げていた。




