第41話 魔族代表会議
◆集会の幕開け
魔族の集落の中心――古びた会議殿に、五つの種族の代表者が集まった。
壇上に立つのは、ユエの案内で来たグラン。
その姿を前に、各代表は静かに、しかし鋭い眼差しで彼を見据えていた。
――デーモンロードのユエ。
――ピクシーの長、メイ。
――白龍族の長、シス。
――ヴァンパイアロードのヴィレ。
――レイスの長、ミカ。
彼らは二千年を超えて存続し、魔族の尊厳を守り続けてきた者たちだった。
◆現状の共有
まず口を開いたのはユエだった。
「今、我々魔族はどうにか生活を繋いでいます。悪魔たちは人間の貴族と契約を結び、魔力を提供する代わりに食料や情報を得ています。
竜族は狩りをして他種族に肉を分け与え、妖精たちは自然魔法を駆使してわずかな土地を耕しているのです」
続いて、ヴァンパイアの長ヴィレが重く言葉を重ねた。
「ヴァンパイアも同じ。血は足りないけれど、互いに支え合うしかない。……それでも私は信じていたわ。大賢者の言葉を。“彼”がいつか戻ると」
会議殿にざわめきが走る。
グランは黙したまま、その声を聞いていた。
◆竜族の問い
静寂を破ったのは、白龍族の長シスだった。
「……お前の“竜族”としての力はどうした、グラン。俺と対を成す“黒龍”の力が、今はほとんど感じられない」
その鋭い問いに、場の空気が一気に張りつめる。
「竜族は寿命が尽きる前に“輪廻転生”をかけ、竜として復活する。それがお前は――人間に転生しただと? そんな不完全な転生……どうかしてる」
さらに、レイスの長ミカも重ねる。
「人間に転生した魔王に、私たちは本当に仕えるべきか? あの戦争で受けた人間からの憎しみ……忘れられるものではない」
会場の空気は張り裂けんばかりの緊張に包まれた。
◆擁護と信頼
だがユエとメイが同時に立ち上がる。
「私たちは知っている。グラン様が魔王として、魔族のために尽くしてくださったことを。姿が変わろうと、本質は変わらないはずです」
「そうよ。魔王様は魔王様。帰ってきてくれただけで、私たちには希望がある」
毅然とした言葉に、会場は一瞬の静けさを取り戻す。
◆グランの答え
視線が集まる中、グランは静かに立ち上がった。
「……俺は今、人間として生きている。けれど、魔王だったことを忘れたことは一度もない」
「人間に転生して分かった。奴らは人間同士ですら差別や搾取を繰り返していた。醜いと思った。だが……セレナやナツ、こはる、クレア、ノア国王。そこには確かに“光”もあった」
「だから俺が目指すべきは、魔族だけを導くことじゃない。人間も魔族も、すべてが共に生きられる世界だ」
「……それでも、俺はまだ迷ってる。世界を知らなすぎる。だからもう少し旅をさせてほしい。……その先で、本当に作りたい世界を見つけた時、改めて力を貸してくれ」
そう告げると、彼は膝をつき、深々と頭を下げた。
会場は静まり返り、代表者たちはしばし言葉を失った。
◆再び魔王として
やがて、シスが低く笑い声を上げた。
「……竜族の力は消えても、お前の本質は変わらねぇな。やっぱりグランはグランだ」
ミカも苦笑する。
「相変わらず人頼りね……魔王なのに」
ユエ、メイ、ヴィレが揃って頷き、宣言する。
「我らは、グラン様を再び“魔王”として迎えます」
その言葉に、会場は静かな熱気に包まれた。
二千年の時を越え、魔族は再び一人の“王”を戴いたのだ。
◆竜族との語らい
会議後、白龍のシスが肩を叩いてきた。
「よう、おかえり。グラン」
「あぁ。ただいま。……やっぱり力、落ちてるか?」
「半分以上な。でもな、2000年経った今、こうして酒を酌み交わせるとは思わなかった。
さっきはきつく言ったが、代表って立場もあるしな。……けど、お前と俺は“別格”の竜族だろ?」
「……あぁ。生きててくれて、ありがとう。シス」
二人は杯を交わし、朝まで語り合った。




