第40話 魔族集落と大賢者
◆集落への到着
グラン一行は荒廃した大地を歩き続け、ようやく小さな集落へと辿り着いた。
そこは今もなお魔族たちが暮らしている場所だった。
彼らの姿は人間とは大きく異なるものの、その振る舞いには確かな尊厳があった。
ユエが一行を先導し、集落の奥へと進むたび、周囲の魔族は一目見るなりひざまずき、無言で敬意を示す。
「お待ちしておりました、魔王様」
かすかな声に、グランは目を細めた。
二千年の時を越えてなお、自分を“魔王”と呼ぶ存在が残っている――その事実は、彼の胸を重く揺さぶった。
「……案内を頼む」
短く返すと、ユエは静かに頷き、さらに奥へと進んだ。
◆大賢者との邂逅
数時間の歩行を経て、集落の最深部に辿り着いた。
そこには――肉体を失い、骨だけとなった大賢者が静かに座していた。
骨の周囲には強力な結界が張られ、なおも威厳と存在感を放っている。
「……大賢者か」
グランは立ち止まり、その異様な姿を凝視した。
二千年前、確かにこの存在は自らの国を滅ぼした“敵”でもあった。
だが同時に、その叡智と力は誰よりも尊敬に値するものだった。
ユエが進み出て、恭しく頭を下げる。
「お待たせしました。こちらが魔王様です」
その言葉に呼応するように、骨の間から古びた声が響いた。
「……魔王よ、来たか」
グランは深く頭を垂れる。
「礼を言う。あなたの導きがあったからこそ、ここに来ることができた」
結界が微かに震え、大賢者の意志が伝わってくる。
「魔王よ。お前が成すべきことはまだまだだ。お前の言葉通り、この世は腐っている。
だが、その世界を変えるのは――他の誰でもない、お前自身だ。
気をつけろ。この世界は必ずお前を試す。選んだ道の先には、必ず試練が待つ」
骨の姿はわずかに崩れかけるが、グランは即座に新たな結界を展開し、その姿を保たせた。
やがて、大賢者は右手を掲げ、魔導書を差し出す。
「これを持っていけ。古代魔法の一つ、“空間操作”だ。お前が進む道で、必ず必要になる」
「……必ず活かそう」
グランは魔導書を受け取り、重みを確かめるように握りしめた。
その瞬間、結界は音もなく消え、大賢者の姿もまた静かに霧散していった。
◆残された言葉
静寂の中、ユエがグランの隣で微笑む。
「魔王様、あなたの未来は決して暗くはありません。ですが、そこに至るまでには数多の困難が待つでしょう。
……それを、私は見届けたいのです」
「……ああ。必ず乗り越える」
短く答えたグランは魔導書を懐に収め、再び歩き出した。
魔族の集落では、代表者たちとの会話が待っている。
その眼差しの先には――二千年前から続く因縁の地で、新たに紡がれる未来があった。




