第39話 魔王国突入前の決意
◆決意の言葉
元魔王国を目前に、空気は張り詰めていた。
禍々しい魔力が風に混じり、視界の奥に見える灰色の空が一行を睨みつけているようだった。
仲間を前に、グランは深く息を吸い、静かに口を開いた。
「……ここから先は、俺の過去そのものだ。
だけど、まだ答えは出せてない。二千年前、俺はこの地で終わった。だが今、再び歩いている。
少しずつ……未来を見据えたいと思っているんだ。
この世界がどうあるべきか、俺が何をすべきか――それを見極めるためにも、もう少し世界を見て回りたい。
……だから、これからも傍にいてくれないか?」
数秒の沈黙ののち、仲間たちが次々と応える。
「……私は最初から、あなたと共に歩むと決めています。これからどんな未来になっても、それは変わりません。だから、安心して」
セレナは一歩前に出て、揺るぎない瞳で微笑んだ。
「うんっ……グランと一緒に行く。私、まだまだ弱いけど……隣にいたいから!」
こはるは拳をきゅっと握り、頬を赤らめながらも力強く答えた。
「お前の隣にいるって決めたのは、俺自身だ。あの過去も、これからの道も、全部ついていってやるよ」
フェンリルは尻尾を揺らしながら低く唸り、力強く誓う。
「オレも行くー! グランといると、毎日が冒険なんだもん!」
ナツは元気よく手を上げた。
「俺に選択肢なんてないよ。君と旅してると、退屈しない。……このまま、世界の果てまで行こうぜ」
蓮は苦笑を浮かべながらも、真剣な瞳で言った。
その全てを受け止め、グランは静かに頷くと、結界の前に立った。
◆封印を超えて
「……行こう」
指先で印を描くと、濃密な魔力が震え、結界がゆっくりと解かれていく。
背後からSランク冒険者の剣士が言葉を投げかけた。
「ここまでだ。俺たちは外で待機する。……中のことは頼んだ。気をつけてくれ」
「ありがとう。ここからは、俺たちの役目だ」
返答と共に、グランたちは枯れ果てた大地へと足を踏み入れた。
そこは色彩を失った世界。禍々しい魔力が空気を濁し、植物はなく、石と骨が風にさらされている。
空は灰色に曇り、陽光すら届かない荒廃の地だった。
◆ユエとの再会
やがて、一人の女性が静かに立っていた。
和装に身を包み、月のように白い肌を持つ儚げな存在――ユエ。
「――お待ちしておりました、主さま」
柔らかな声に、仲間たちは足を止める。
「ここから魔族の居住地へご案内いたします。……ですが、その前に――」
言葉を遮るように、こはるがふらりと立ち止まり、膝をついた。
「だめ……気持ち悪い……頭が、ぐらぐらする……」
グランが駆け寄ると、こはるの額には冷や汗が浮かんでいた。
この地に充満する濃厚すぎる魔力が、彼女の身体を蝕んでいたのだ。
「私が結界を……!」
セレナがすぐに魔力を展開し、こはるの周囲を柔らかな膜で包む。
「これで少しは楽になるはず。グラン、ここで一度休みましょう」
「……ああ、そうしよう」
ユエは頷き、近くの岩陰に皆を案内した。
◆刻まれた過去
グランはふと遠くを見つめた。
そこには石に刻まれた無数の傷跡――二千年前の戦いの痕跡が残っていた。
あの時、自分が選んだ“終わり”が、今も確かにここにある。
果たしてあの戦いは、何を変えたのか。
それとも、何も変えなかったのか――。
彼の胸に、かつて抱いた“後悔”の影がじわりと滲んでいた。




