第36話 報告と再会・蓮の真意
◆王宮への報告
翌朝、王宮の謁見室。
グラン、近衛騎士団長、宮廷魔道士長、そして王女クレアが国王ノアの前に並び、遠征の報告を行った。
グランが一歩前へ出て、深々と頭を下げる。
「陛下。王女殿下の護衛任務、無事完了いたしました。
途中、魔物の大規模な襲撃がありましたが、皆の協力により無傷で帰還できました。
ですが……問題は、その魔物たちの“連携”と、彼らの背後にいた“使い人”の存在です」
続けて近衛騎士団長が重々しく言葉を紡ぐ。
「はい。魔物たちは、まるで統率された軍勢のように動いておりました。
特に黒衣の男は“あの人”と呼ばれる存在に仕えていると自称し、王女殿下の命を狙っていたのです」
宮廷魔道士長が険しい表情で補足する。
「“あの人”に関しては情報不足ですが、思想的な背景を持ち、各国の不満分子を取り込んで暗躍しているようです。
連合国の不和に付け入る余地は多分にあります」
クレアも静かに頷き、声を重ねた。
「勇者の国もまた、自国の力を誇示する傾向が強く、他国への配慮を欠いていました。
連合国の会議でも、建前とは裏腹に、各国王たちは自国の利益ばかりを見ていたように思えます」
ノア国王は重く目を閉じ、深く頷いた。
「そうか……よくぞ報せてくれた。諜報部隊には引き続き“あの人”の動向を探らせる。
各国の王が“民を守る”より“地位と権力”に溺れているようでは、いずれ火種となるだろう……」
報告が一段落すると、クレアが少し照れたようにグランへ振り向いた。
「この度は、本当にありがとうございました。無事に帰還できて……嬉しく思っています。
父を信じてあなた方に護衛を任せて良かったと、心から感じています」
そして頬をわずかに赤く染めながら、言葉を重ねる。
「戦っている時のあなた……とても強くて、そして……優しかったです。
もし機会があれば……ゆっくりお話をしたいですね」
その視線を横から見ていたセレナとこはるが、同時にジト目になったのは言うまでもない。
◆自宅での再会
謁見を終え、グランたちは家へと帰還した。
玄関を開けると、父リオと母レナが、テーブルでコーヒーを飲んでいた。
しかし、その奥に見慣れぬ――いや、見覚えのある人影があった。
「おかえりなさい、グラン。ちょうどお友達が来てね。
『もうすぐ帰ってくるって聞いたので、少し待たせてください』って言うから、コーヒー淹れたのよ」
母リオの穏やかな声に、グランの視線は鋭く男を捉える。
「よう、グラン。お邪魔してるよ」
そこにいたのは――蓮。
二千年前、自らを討った“転生者”。
空気が一瞬凍りついたが、両親の手前、グランは黙ってコーヒーを共にした。
その後、彼は蓮を呼び出し、人気のない広場へと向かった。
◆蓮の真意
「ここなら話せるな。……で、俺に何を聞きたい?」
グランの声は低く鋭かった。
「なぜお前が生きている? 二千年も経っているというのに」
蓮は懐かしげに空を仰ぎ、静かに語り出す。
「君が魔王だった頃、最後に言った言葉を覚えているよ。
『この世界は腐っている』――あの言葉が、俺の心に刺さったんだ」
「君が死んだ後、俺は世界を見て回った。……本当に腐っていたよ。
身分差別、奴隷制度、理不尽な搾取。国のトップが国民を顧みない現実」
「だから一度だけ、正式に“王”になったこともあった。
だが性に合わなくてね。俺は元々ただの自由人だし。
それで自分のいた世界――“日本”の制度を基に国を作り直してみたんだ」
蓮の声には熱がこもり、淡々と語る言葉に重みがあった。
「選挙で代表を選び、法律を整備し、地方にも自治を与えた。
制度を機能させて満足したら、あとは旅に出た。
その途中でダンジョンを作ってみたりもした。挑戦したい奴らのためにな」
グランは眉をひそめ、問いを投げる。
「……どうやって生き延びた。不老不死か?」
蓮は笑みを浮かべる。
「完全な不老不死はごめんだ。“ひとときの不老不死”さ。
時間停止、聖魔法、いろんな術を重ね合わせて――“死ぬことはなく老いることもない”状態を一時的に作った。
まぁ、いつかは死ぬだろうけどね」
そして、彼の瞳が真っ直ぐにグランを射抜いた。
「その状態で世界を見ていたら、ある日、君の“魔力の残滓”を感じたんだ。あぁ、面白くなりそうだってね」
蓮は懐かしそうに微笑む。
「……またこうして話せて良かった。これから、君についていって仲間になってもいい?」
その言葉に、グランは目を細めたまま黙し――やがて静かに頷いた。




