第34話 再会と記憶
激戦の余韻がまだ漂う戦場跡。
硝煙の匂いが残り、倒れた魔物の影だけが静かに横たわっていた。
その中に――突如として一人の青年が姿を現す。
かつて異世界から転生し、二千年前の“魔王グラディオン”討伐に深く関わった存在。
その名は――蓮。
グランがその姿を認めた瞬間、表情が強張った。
だが奇妙なことに、周囲の仲間たちは誰も蓮の存在に気づいていない。
まるで、この場に彼を認識できるのはグラン一人だけであるかのように。
蓮が歩み寄ろうとした、その刹那――。
「……ッ!」
フェンリルが素早くグランの前に立ちはだかり、鋭い牙をむき出しにして威嚇した。
その声には、怒りと憎しみが混じっていた。
「やはり……お前か!」
◆二千年前の記憶
フェンリルの脳裏に、二千年前の光景が鮮烈によみがえる。
彼は聖獣の群れを率い、数多の戦場を駆け抜けていた。
だが順調に敵を蹴散らしていた戦場に、突如として現れた存在――それが蓮だった。
蓮の力は異質だった。
強大すぎる魔法、異常な身体能力、そして何より――“時を操る力”。
その圧倒的な力の前に、仲間たちは次々と倒れ、屍を晒した。
最後には一頭の仲間がフェンリルを庇い、盾となって散っていった。
「逃げろ、フェンリル……お前だけは……」
それが、彼の仲間の最期の言葉。
重傷を負いながらも魔王城へ戻ったフェンリルは、その無念を今も鮮明に覚えている。
そして今、その仇が――主の前に再び現れたのだ。
「お前は――ッ!」
フェンリルが叫ぼうとした、その瞬間。
◆静止する時
世界が凍りついた。
空気の流れも、木々の揺れも、仲間たちの動きも――すべてが止まる。
動けるのは、グランと蓮、二人だけだった。
「……ああ、あの時の聖獣か。なかなか手こずったよ。強かったな」
蓮が懐かしむように呟いた。
「なぜ……現れた」
グランの声は低く鋭い。
「ん? まぁ、いろいろあってね」
蓮は飄々とした笑みを浮かべながら答える。
「詳しい話は……君の任務が終わってからでいいよ。まだ護衛中だろ? クレア姫も大事な時期だし。
報告も処理も、いろいろあるだろ? ぜんぶ片付いたら、会おう。君たちの国で――ね」
その言葉を残し、蓮の姿は一瞬で消え去った。
時間が再び動き出す。
フェンリルはなおも前を睨みつけていたが、そこにはもう誰の姿もなかった。
グランは静かに拳を握りしめる。
胸の奥に重くのしかかる“力不足”の感覚と、得体の知れぬ不安。
それは確かな現実として、彼の心に残された。




