第29話 勇者の国・到着と歓迎
三日間にわたる護衛の旅路を終え、グランたち一行はついに「勇者の国」へと足を踏み入れた。
夕暮れが街を包み、城下町の灯火がひとつ、またひとつとともっていく。
旅の疲労が足に残る中、王宮の大門が重々しく開かれ、迎え入れるように広間の光が差し込んだ。
姿を現したのは、この国の国王と、その隣に控える若き王子。
「ようこそ、我が国へ。第一王女クレア殿、そして皆の者……長旅ご苦労であった」
国王は威厳をたたえた声で語る。だが、その瞳は探るように鋭く、一行の姿を余さず見据えていた。
王の隣に立つ第二王子と思しき青年は、にこやかに微笑んで一歩前に進む。
「夜も更けております。まずは温かい食事と休息を。お話は明日、ゆっくりといたしましょう」
柔らかな声に促され、一行は王宮の奥、客人用の広間へと案内された。
◆歓迎の宴
広間の長卓には、すでに豪勢な料理が並べられていた。
香ばしい肉の香りと、色鮮やかな果実酒の芳香が空腹を刺激する。
グランたちは席につき、それぞれ食事に手を伸ばした。
しかし、会話はどこか抑制され、笑い声は少ない。
疲労の影もあったが、国王と王子の視線に込められた警戒心を、誰も拭い去れなかったからだ。
やがて食事が終わると、侍女たちが静かに片付けを始め、客人たちは各々の寝室へと案内された。
◆女性たちの同室
クレアの提案で、セレナとこはるは彼女と同じ部屋に泊まることになった。
「歳の近い者どうしの方が、きっと安心できるでしょう」
そう言って笑みを浮かべるクレアに、セレナもこはるも快く頷いた。
華やかで気品ある部屋に通され、三人は一日の疲れを共に癒す準備を整えた。
部屋の前には近衛騎士が二人控え、さらに王宮外周はグランたちを含む護衛隊が厳重に布陣。
彼らの慎重さは、これがただの親善訪問ではないことを物語っていた。
◆夜の城壁にて
そのころ、グランはフェンリルとともに城壁の上に立っていた。
夜風が外套を揺らし、頭上の夜空には無数の星が瞬いている。
「ようやく着いたな……」
静かな声で呟く。
「ですが、本当の任務はこれからですね」
フェンリルが低く答えた。
「油断は禁物だ。まだ、何も終わってはいない」
二人の言葉が冷たい空気に溶けていく。
こうして――勇者の国での長く、そして複雑な数日間が幕を開けた。




