第28話 三人の語らい、揺れる想い
夜の帳が下り、焚き火の明かりがほのかに揺れるころ。
王女殿下――クレア、そしてセレナとこはるの三人は、同じテントで夜を過ごすことになった。
「歳の近い方々と一緒のほうが、少し気が楽ですわ」
そう微笑んだクレアは、この国の第一王女。上に二人の兄がいるため王位継承権は低いが、それでも数多の責務を担っているという。
気さくな口調に、緊張していたセレナとこはるの肩が少しだけほぐれた。
テントの外では三重の布陣が張られていた。
近衛騎士団が外周を警備し、宮廷魔道士が結界と感知魔法を展開。
そして、グラン、フェンリル、ナツが交代制で周囲を見張り、即応の備えを整えていた。
◆女性陣の語らい
テントの中、クレアは丁寧に二人へ頭を下げた。
「改めまして、私はこの国の第一王女、クレア・リオネスです。今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ……殿下と一緒のテントなんて、恐縮です」
セレナがやや硬い声で返すと、こはるも慌てて「よろしくお願いしますっ!」と頭を下げる。
「ふふ、そんなに緊張なさらずに。年も近いのですから、今夜はお友達として話しましょう」
クレアの柔らかな笑顔に、二人もようやく口元をほころばせた。
やがて話題は学院での出来事や、冒険者としての日々へと移っていく。
こはるが茶目っ気を出して「セレナさん、グランさんのことになると急に饒舌になるんですよ」と口にすると、セレナは真っ赤になって「そ、そんなことないわよ!」と慌てて否定した。
「グラン様、ですね……」
クレアがその名を口にした瞬間、二人の表情が固まる。
「父上からお話は伺っておりました。並外れた力を持ち、なおかつ冷静沈着で仲間想いな方だと。今日の戦闘を見て、その意味がよく分かりました」
「そ、そうですか?」
セレナの声はわずかに上ずる。
「ええ……とても素敵な方ですね。まっすぐで、強くて、信頼できる。ああいう方が隣にいてくださったら、心強いでしょうね」
「そ、そうですね……」
「う、うん……」
気まずい沈黙が一瞬流れるが、クレアは悪びれることなく微笑んだ。
「お二人とも、心配なさらず。私はまだ、気になっただけですもの」
――その言葉は穏やかでありながら、どこか宣戦布告にも聞こえた。
グランをめぐる三つ巴の静かな戦いが、ここに幕を開けたのだ。
◆外の警戒
一方そのころ、テントの外。
「……やっぱり、あの魔物たち。普通じゃなかったよな」
グランが夜空を仰ぎながらつぶやく。
「はい。動きが統制されすぎていました。まるで、軍隊です」
ナツが感知魔法を維持しつつ答える。
「誰かが指示を出していたのか、それとも……」
フェンリルは低く唸りながら続ける。
「魔物にしては妙に統一された意志を感じた。何かの組織的な動きの前兆かもしれません」
グランは小さく頷いた。
夜は静かに、更けていく。
だがその胸の奥には、それぞれ不穏な影を抱えたままだった。




