第27話 王女護衛行軍と迫る影
◆出発
王女殿下の護衛任務当日。
澄んだ朝の空気の中、グランたちの新たな旅路が静かに始まろうとしていた。
「気をつけてね、グラン。あんたが皆を支える立場なんだから」
母レナが心配そうに声をかける。
「無茶しすぎないようにな」
父リオもまた、息子の肩をポンと叩いた。
こはる、セレナ、ユエ、ナツ、そしてフェンリル。
仲間たちは真剣な面持ちで荷をまとめ、家の前で見守る両親へ深々と頭を下げた。
馬車の扉が閉まると、隊列は動き出す。
先頭に王女殿下と近衛騎士団。
その後方に宮廷魔道士たち。
最後尾をグランたちが固める。
もし後方から襲撃を受けても即応できるよう設計された陣形だった。
なつは時折目を閉じ、魔力の揺らぎを探知。フェンリルは風を嗅ぎ、周囲の気配を探る。
ユエは常に王女殿下の精神状態を見守り、異常の兆しを探した。
一行は警戒を怠らず進み、初日は何事もなく過ぎていった。
◆二日目・奇襲
翌朝。澄み切った青空の下、隊列は再び動き出した。
森を渡る風は清らかで、鳥のさえずりが心を落ち着ける。
昼頃、開けた場所で短い休憩が取られる。
王女殿下が下馬し、侍女に用意された食事に手を伸ばしたその時――
「っ!? 前方に魔力反応! 接近してきます!」
なつの鋭い声が空気を切り裂いた。
瞬時に張り詰める緊張。
「来たか……!」
森の茂みを裂いて飛び出したのは、数十体の魔物たちだった。
バジリスクの眼光が鋭く光り、ケルベロスが三つ首を吠え、巨蛇サーペントが大地をうねらせる。
いずれもBランク相当の魔物ばかり。
だがその動きは――あまりにも整然としていた。
「囲んでくる!? こんな連携……魔物とは思えない!」
こはるの叫びが戦場に響く。
「陣を維持! 前衛は剣を抜け! 後衛は結界展開!」
近衛騎士団長の号令が飛ぶ。
刹那、地を蹴って前に出たのはグランだった。
鋼の剣が陽光を受けて閃き、バジリスクの首を刎ねる。
セレナはすかさず詠唱を終え、炎の大弾をケルベロスの群れに叩き込む。
轟音とともに爆炎が巻き起こり、黒煙が戦場を覆った。
「殿下を守れ!」
ナツが結界を展開し、王女を中心に透明な壁が張り巡らされる。サーペントの尾が叩きつけられるが、結界が火花を散らして弾いた。
フェンリルは影のように走り抜け、牙で敵を切り裂く。
なつの詠唱から放たれる雷撃が、群れをまとめて痺れさせた。
連携は淀みなく、仲間たちの動きは噛み合っていた。
激戦は十数分に及んだが、やがて最後の魔物が倒れ伏すと、森は再び静寂を取り戻した。
◆不安の影
「……誰も欠けずに済んだな」
剣を払ったグランの言葉に、全員が深く息をつく。
だが、安堵の中でグランは空を仰ぎ、眉をひそめた。
(なぜ、あの魔物たちはあそこまで統制の取れた動きを……? まるで指揮官がいるようだった)
不穏な疑念が胸に残る。
そしてその頃――
森の奥深く、誰にも気づかれぬ暗がりで、一人の男が彼らを見下ろしていた。
「ふふ……さすがですね、グラン様。ですが、まだまだこれからですよ。
すべては“あの人”のために。……これからが本番です」
その瞳には狂気と揺るぎない忠誠の炎が宿っていた。




