第23話 迷宮での真実と覚醒
王女殿下の護衛任務を控えたグランたちは、連携と戦闘訓練のため、中級迷宮への挑戦を決めた。
メンバーはグラン、セレナ、こはる、フェンリル、そして新たに加わったユエの息子・なつ。
迷宮に入る前、グランは戦闘隊形を確認する。
「セレナ、こはるは前衛補助。なつは支援と後衛攻撃。フェンリルは自由に動いて状況対応を頼む」
その指示に一同が頷き、いざ迷宮へと足を踏み入れた。
◆災厄級への変貌
迷宮に入ってすぐ、空間が軋むような不気味な音が響いた。
『強い戦闘能力を確認。――シークレットモード起動』
機械的な声が木霊し、周囲の空間がねじれる。
次の瞬間、中級迷宮は突如として「災厄級ダンジョン」へと姿を変えた。
「空間ごと……構造が書き換わった……!?」
グランが歯を食いしばる。
目前に現れたのは、群れを成すBランク相当の魔物たち。狼型、巨人型、異形の昆虫。
だがグランは即座に判断を下す。
「数は多いが、質は問題ない。突破する!」
剣と魔法、俊敏な連携で魔物の群れを薙ぎ払い、彼らは進んでいく。
◆猛攻の階層
だが次の階層では、Aランク級の魔物が待ち構えていた。
巨体のオーガが大斧を振り下ろし、地面が砕ける。
「っ……はぁあああ!」
こはるが風を纏った剣を振り抜き、斧の軌道を逸らす。セレナがその隙に雷弾を叩き込み、オーガの体を貫いた。
「連携が乱れないように!」
グランの声に全員が頷き、全力で戦い抜く。
息を切らしながらも、彼らは最下層直前の安全地帯に到達した。
◆最奥の絶望
そこは異様なまでに広く、人工的な気配すら漂う空間だった。
しかし次の瞬間、空間が揺れ、無数の魔物が姿を現す。
「……SSランク……いや、それ以上か」
ベヒーモス、変異種のドラゴン、そしてSSSランク級の怪物まで。
圧倒的な気配が押し寄せ、空気が重くなる。
「広範囲魔法が使えない……この空間、脆すぎる」
グランは即座に結界を張りながら判断した。
フェンリルは影のように走り、なつは後衛から支援魔法を放つ。
セレナとこはるは必死に剣と魔法で抗った。
だが数の暴力に押され、こはるは吹き飛ばされ剣を失い、セレナも攻めあぐねて防戦一方となる。
「くっ……!」
二人が孤立し、窮地に陥る。
グランが結界を展開して駆けつけ、二人を庇った。
だがその上から、SSSランクの影が迫る。
◆ヴァンパイアクイーン
「……もう、しょうがないね。ごめん、グラン、血もらうね」
セレナが囁くと同時に、彼の首筋へと牙を立てた。
赤い光が爆ぜ、彼女の身体を包む。
次の瞬間、華やかなドレスのような装束を纏い、黒紫の翼を大きく広げた妖艶な姿がそこに現れた。
伸びた爪と牙、紅に輝く瞳。
「ヴァンパイアクイーン……!」
なつが目を見開き、笑みを浮かべる。
フェンリルは低く呟いた。
「懐かしい姿ですね……まるで、あの頃の戦場を思い出します」
セレナは仲間たちを振り返り、わずかに悲しげに笑った。
「だましてごめん。でも……皆を守るために。魔王の片腕として――道を切り開く!」
咆哮とともに飛び出した彼女は、無数のコウモリを召喚し、敵を混乱に陥れる。
鋭い爪がSSランクの魔物を斬り裂き、血の魔力が怪物たちを魅了して同士討ちへと誘う。
圧倒的な暴力と美が混ざり合った戦いに、戦況は一変した。
仲間たちも体勢を立て直し、こはるは再び剣を握り、なつは支援を強め、フェンリルは死角を突いて次々と魔物を討ち倒す。
ついに、空間を満たした災厄の群れは殲滅された。
◆告白と絆
戦いの後、荒い息を整えながらも、仲間たちは互いを見つめ合った。
こはるは驚きに目を丸くしながら、セレナへと視線を向ける。
グランは静かに口を開いた。
「……もう隠すのはやめよう。俺は魔王の転生者だ。フェンリルは聖獣。そしてセレナは……ヴァンパイアクイーンであり、四天王の娘。ユエやなつも悪魔で、皆、魔族だ」
こはるはしばらく黙り込んでいた。
だが、やがて大きく息を吐き、ふわりと笑った。
「ごめんなさい。情報が多すぎて混乱してたけど……整理したら、なんとなく分かりました」
セレナが不安そうに翼をたたむ。
「……ごめんね。こんなヴァンパイアの姿、怖いでしょ」
こはるは首を横に振った。
「私だって耳としっぽありますし! 同じです! それに、魔族とか人間とか犬とか関係ありません。私を仲間として扱ってくれたこと、本当に嬉しかった。だから……私も皆さんを仲間だと思ってます!」
「……私を動物扱い……」
フェンリルが小さく拗ねたように呟き、一同は思わず笑った。
戦いの疲れと安堵、そして確かな絆が、そこにはあった。




