第16話 新たなる仲間、忍び寄る影
翌朝。グランたちはこはると合流し、一人の女性を紹介した。
「彼女はユエ。新しく仲間になった冒険者だ」
そう言って紹介されたユエは、和装の似合う落ち着いた雰囲気の美女だった。こはるは一瞬、言葉を失ったが、すぐに笑顔で挨拶を返す。
「ユエさん、よろしくお願いします! 一緒に頑張りましょうね!」
ユエは微笑みながら小さく頷いた。
「……こちらこそ。よろしくね、こはるちゃん」
その日のうちにユエは冒険者登録を済ませた。隠しきれない気品と不思議な空気をまといながらも、面倒ごとは起こさず淡々と手続きを終える姿は、どこか異質でありながらも、同時に強く人を惹きつけるものがあった。
翌日。グランたちは初級ダンジョンへのクエストに挑むことになった。目的は素材収集と探索訓練を兼ねたもの。
目的地に着くと、すでに別のパーティーが入口付近で待機していた。
そのパーティーは男ばかり四人。筋肉質で威圧的な態度の彼らは、自分たちが“Cランクパーティー”であることを誇示し、セレナ・こはる・ユエに向かってにやにやと声をかける。
「なぁなぁ、うちのパーティーに入らねぇか? そっちの三人、どう見ても役立たなそうだしよ」
セレナは眉をひそめ、冷ややかに返した。
「私たちは、今のままで十分です」
その言葉に男たちは苛立ちを隠さず、セレナの腕を引こうとする。
「おいおい、ちょっとくらい付き合えって!」
だがその時、別のパーティーが現れた。男女二名ずつ、四人組。明らかに格上の気配を纏う彼らは、Bランクパーティーだった。
彼らは何の苦もなくCランクの男たちを地面に叩き伏せる。
「なっ、なにしやが──」
リーダー格の男が冷ややかに言い放った。
「誤解するな。助けたわけじゃない」
そして視線をグランたちへと向ける。
「この三人は、“あの人”が望む世界に必要な存在なんだ」
その言葉に、グランとセレナの表情が一瞬だけ凍る。
こはるもただならぬ気配を察して身構えた。
──“あの人”。捕らえられたはずの元教頭とは別に、“本物”がまだ動いているというのか。
Bランクパーティーが彼らを連れ去ろうとした瞬間、セレナたちは素早く身を翻し、するりと距離を取った。俊敏な動きと迷いのない判断。その光景にリーダーの男は目を見開く。
「……やっぱりそうだ。やはりお前たちは必要な存在だ」
再び男が襲いかかろうとした、その時。
「そこまでだ」
重厚な声が響き、数人の騎士団が姿を現した。その中央に立つ騎士団長はグランの姿を認めると、わずかに頷き、即座に冒険者たちを拘束した。
事情聴取の後、王都に戻ったグランたちは真実を知ることになる。
捕らえられた冒険者パーティーは、四季連合国の“魔導の国” から来た者たちだった。王宮の魔導士による“真言強制開示魔法”によって、彼らの証言が引き出される。
「“あの人”に雇われていた……。詳しい情報は与えられてなかったが、俺たちは信じていたんだ。“あの人”は創造神の代行者で、この世界を再構築する神聖な存在だと」
「“あの人”の教会に入信すれば、理想の世界が来ると……。俺たちは、ただ従っていただけだ」
その証言に、グランたちはかつての教頭へ視線を向ける。
「確かに私は、“あの人”を演じた。神の声を代弁しているように見せかければ、人は集まるからな。だが……私が作ろうとした教会に、実在する“あの人”の意志が重なった……それだけのことだ」
教頭の告白は、グランたちがすでに感じ取っていた事実を裏付けるものだった。
「用心しなければな……“本物のあの人”は、まだ動いている」
その夜。
グランはユエを呼び寄せ、こはるの部屋の窓辺に立った。
「ユエ。今後、こはるの影に潜んでいてくれ。あくまで気づかれないように……守ってほしい」
ユエは静かに頷き、柔らかく微笑んだ。
「了解しました。我が主」
そして、静かに闇へと溶けていく。
グランは夜空を仰ぎ、胸の内で呟いた。
──この世界は、まだ静かに狂っている──。
その時、彼らはまだ知らなかった。
“本物のあの人”が、すでに動き出していることを。




