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第15話 魔王帰還と再会の刻

──それは静かな始まりだった。

冒険者としての第一歩。

グラン、セレナ、こはる、そしてフェンリルは、ギルドから依頼された薬草採取とゴブリン討伐のクエストを請け負い、かつてセレナとフェンリルを封印から解いた湖の近くへ向かった。

こはるにとっては初めて訪れる場所。何気ない会話を交わしながら進む道のりの背後で、遠くから彼らの様子を観察する視線があった。

その存在に気づいていたのは、グラン一人だけだった。

「……今はまだいい。泳がせておこうか」

クエストは順調に進み、薬草を集め終えた後、彼らは小型のゴブリンの群れを発見する。

剣と魔法で手際よく討伐していく中で、グランはふと口元をゆるめた。

「昔はこいつらを訓練相手にしてたな……」

報酬を受け取るためにギルドへ戻り、皆で報酬を分け合った後、こはるは自宅へ。

残ったグラン、セレナ、フェンリルの三人と一匹は、再び湖へと足を運ぶ。

そして──そこに待っていたのは、あの視線の主だった。

姿を現したのは、かつて学院を襲撃した悪魔。

しかしその姿は大きく変わっていた。妖艶な和装に身を包み、長い黒髪を風に揺らす。整った顔立ちと、目を合わせた者を惑わせるほどの美貌。

セレナはわずかに眉をひそめる。

「久しぶりね、フェンリル、セレナ……そして、我が王よ」

耳元で囁くような声。その響きに、グランはほんのわずかに懐かしさを覚えた。

「……戻ってきたか、ユエ」

悪魔の名は、ユエ。

彼女の放つ魔力は、確かに二千年前の記憶を呼び起こすものだった。


◆語られる真実

ユエの父は、かつて魔王四天王の一人。勇者パーティーとの戦いで命を落としたという。

そして今、彼女は元魔王国にて悪魔、妖精、竜族、ヴァンパイア、アンデッド、魔人らと共に暮らしているという。

「魔族は今、およそ百名ほど。豊かではないけれど、皆で仕事を分け合いながら命を繋いでいます」

ユエの声にはわずかな誇りと、影のような寂しさが混じっていた。

「あの人」に協力していたのも、その一環にすぎなかったらしい。

「でも……魔王が復活したと聞いた時、皆が祭りのように喜びました。涙を流す者までいたのです」

グランはしばし黙し、それから静かに言葉を返す。

「だが、俺は今、人間としての人生を歩んでいる。すぐに“魔王”として戻るわけにはいかない」

「……帰還には準備がいる。それまで、俺の傍にいてくれ」

その言葉に、ユエは深く頭を下げた。

「もちろんです、我が主。再びあなたと共にあれることを、心から誇りに思います」

やがてユエの視線は、セレナとフェンリルへと向けられた。

「懐かしいわね……あなたたちがまだ小さかったころ、王と一緒によく遊んでくれた」

セレナは少し目を細めて微笑んだ。

「……そんなこともあったわね」

彼女はかつて魔王四天王だったヴァンパイアの娘。

いざという時には命を懸けて戦ってくれる存在だが、自分が「魔王の片腕」として立つには、その役割が重すぎることも、どこかで理解していた。

「……私はまだ、その器じゃない。でも、あの頃よりは強くなったわ」

その言葉に、フェンリルも静かに頷いた。


◆影に宿る忠臣

「では……これより私は、再び影に潜みましょう」

ユエはそう言い、セレナの影にすっと姿を溶かした。

彼女の気配が消えても、確かにそこにいることを三人と一匹は感じていた。

──こうして、再び始まった魔王とその眷属たちの歩み。

だがその道が決して平坦ではないことを、グランはよく知っていた。

「……帰るか。次に進むために」

三人と一匹の歩みは、静かに湖を後にした。


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