第103話 グランの覚醒 ― 漆黒龍の逆転劇
グランは深い闇の中で夢を見ていた。
それは二千年前の記憶――。
セレナとフェンリルを自らの手で封印した後、ただ一人、朽ち果てゆく魔王城の玉座に腰を下ろした時。
城壁の外では、人間と魔族が果てしなく戦い続け、血と炎が大地を覆っていた。
勝者などいない。ただ破滅だけが積み重なっていく戦場。
「……なぜ、俺は人間との争いを選んだのか」
胸を押し潰されるような痛み。
力はあったはずなのに、仲間も、民も、未来さえも守れなかった。
玉座に一人取り残された魔王の姿は、敗北者のそれだった。
だが――あの時、彼は誓ったのだ。
「次はもう、後悔はしない。たとえすべてを失おうとも、自分の選択を信じ、貫き通す」と。
■闇の中で
現在。
荒廃した大地には敵も味方も関係なく屍が横たわり、血に染まった風が吹き抜けていた。
グランはよろめきながらも立ち上がり、低く呟く。
「……自分の選択を信じる……!」
その姿に、使い人は薄く笑みを浮かべた。
「まだ立ち上がりますか。この流れだと……まさか“覚醒”でもしましたか? ですが、残念ながら私はまだ本気ではありません」
グランは剣を強く握り締め、吠えるように斬りかかる。
だがその一撃は容易く弾かれ、逆に胸を撃ち抜かれ地へ叩きつけられた。
「所詮はこの程度……」
冷たい声が響き渡り、戦場に絶望の気配が広がっていく。
■ユエの声、そして一通の手紙
「……主!」
駆けつけたユエが、倒れるグランに膝をつき、迷いなく回復魔法と強化を重ねる。
光が彼の体を癒やし、再び目が開かれる。
だが、その瞳には深い影――「自分では勝てない」という絶望が宿っていた。
「……俺では、勝てないのか」
その手に、ユエは一通の手紙を差し出した。
「先ほど、あなたの父上から預かりました。魔王国に避難していた時……声が聞こえたのです。『これを渡せ』と」
封を切る。そこに書かれていたのは、たった一言。
――「頑張れ」
「……それだけ、か……!」
力なく震える声。
だが次の瞬間、脳裏に眩い光が差し込み、複雑怪奇な竜族の古代言語で描かれた魔法陣が刻み込まれた。
耳に響く声。大賢者のものだった。
『一応、こんなトリックを仕掛けておいた。この魔法陣は一度きりの魔法だ。お前が必要になった時に現れる。この手紙が届いた時が、その時だろう……行け!』
■漆黒龍の誕生
グランの体が光に包まれる。
その姿は竜族の本来の姿を超え、伝承でしか語られなかった存在――竜神族へと昇華していく。
漆黒の鱗、世界を覆うほどの翼。
絶対なる龍――漆黒龍がここに誕生した。
「待たせたな……ここからが逆転劇の始まりだ」
その声は地を震わせ、天を揺るがす。
竜神族の力を完全に解放したグランは、静かに使い人を見据えた。




