第101話 こはると剣聖 ― 受け継がれた誇り
救護室でフェンリルが眠りにつき、ひかりが神聖魔法を発現していたその頃――。
戦場の一角で、こはるは静かに息を整えていた。
そこへ、ゆっくりと歩み寄る影がある。
ついに「あの人」が前線へ姿を現したのだ。
■あの人との対峙
「あぁ~、まさかあの時、僕に剣を貫かれた子が生きてたとはねぇ」
あの人は薄く笑い、獣人の少女を見下ろす。
「それにしても……君、どこか僕と同じ匂いがするな。あぁ、そうか。剣聖の子孫だろう? でも獣人だなんて――剣聖が遊びで作った子供の末裔ってわけか!」
こはるは目を細め、剣を構え直した。
「やはり……私はあなたと戦う運命なのですね。同じ剣聖の末裔として……恥ずかしくはないのですか?」
あの人は肩をすくめる。
「何を言う。剣聖様は女遊びと賭博に明け暮れたとも聞かないか? 英雄なんて裏ではこんなものさ」
こはるは強く首を振った。
「それでも! 二千年前、剣聖が世界を救ったのも事実! 私はその誇りを胸に戦う! 未来を守るために!」
「だっさぁ……」
吐き捨てと同時に、音速を超える剣撃が襲いかかる。
こはるは必死に受け止め、衝撃で大地が裂けた。
■剣聖の加護
刃と刃が幾度も交錯し、稲妻のような衝撃波が戦場を覆う。
やがて、あの人の体が光を帯びた。
「そろそろ本気を出してもいいかな?」
膨大な光が全身からあふれ出す。
「剣聖の加護」――二千年前の遺産ともいえる力が解き放たれたのだ。
「どうだ、こはる。お前に勝ち目などない。いっそ、僕の女になれ。そうすれば、より強い子孫を残せる」
「……っ! 絶対に嫌! 私はあなたに屈しない!」
その瞬間、こはるの体にも輝きが宿った。
これまで沈黙していた「剣聖の加護」が、彼女の努力と覚悟に応じるように発動したのだ。
「これは……!」
あの人が驚愕の声を漏らす。
二つの加護が激突し、光が戦場を飲み込む。
渾身の一撃――こはるの剣が、ついにあの人の胸を貫いた。
「な……んだ、これは……?」
膝をついたあの人は、自らの血を見下ろしながら呻いた。
■真の黒幕
その時、背後から影が歩み出た。
「……まさか、兄上がここまで弱いとは。失望しました」
声の主は「使い人」。
「…兄だと?」
あの人は驚愕し、振り返る。
だが、その言葉を最後まで紡ぐより早く、使い人の刃が兄を切り裂いた。
「あなたは負けたのです。もはや役立たずだ」
倒れゆく兄を一瞥すると、使い人はゆっくりとこはるに視線を移した。
「さて……次はあなたの番ですよ、こはるさん」
■絶望と救い
満身創痍のこはるは、もう一歩も動けなかった。
「……これまで、なの……」
使い人の剣が振り下ろされる――。
その瞬間、鋭い金属音が響き、刃は弾かれた。
「間に合ってよかった」
立ちはだかる影は――グランだった。
「グラン……! あの人より……ずっとやばい感じがする……!」
「分かっている。だが、任せろ」
使い人は冷たい笑みを浮かべる。
「では……本当の最終戦、始めましょうか」
こうして、戦いは真の決戦へと移るのだった。




