表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

あの向こう側には何がある?

 学校の帰り道、毎度のことながら皆と遊んでいてすっかり暗くなってしまった。そこでふと空を見上げると、薄い、本当に薄い雲が広がっている。また当然のことながら動いている、風に流されてゆっくりと。そのさまがまるで氷の様だった。ちょっと角ばった感じの雲、それが海の上の巨大な流氷の様に流れている。薄い雲だということはさっき強調したけれど、そのことを示すのが、天空の満月を横切るとき、何と月が全然曇らない。そのまんま、流氷のような雲を透かして月を見上げる僕、まるで極北の深海にいる呆けた魚の様だった。


      *    *    *    *    *    *    *    *


 自動車がごろごろと走り回る広い道路から離れて狭い道に入る。こんなに小さな道なのに、ここいらはどうも高級住宅街らしい、周りは大きな住宅ばかり、だからだろう、今時分から慎み深く静まり返っている。すごく静かでひっそりしてて、僕の足元のマンホールの蓋の辺りから下水のパチャパチャと流れているのが聞こえてくるようだし、蓋の裏側に付いた水滴が垂れてでもいるんだろうか、キーンキーンと水琴窟のような音までが聞こえて来もする。でもこれらの音が妙に空虚でがらんどうで、ちょっと不安になってしまう。この足の下の大地が空っぽであるかのようだ。空っぽ、この空っぽと地面の間には何があるんだろう。薄い表面、これだけ、これだけだろうか。卵の殻みたいな、ごく脆い何か。その上を歩くと、どうも心もとない。足元が頼りない。今にもあっさりと崩れ去ってしまうようで、不安だ。でも同時にある種の共感のようなものもある。その裂け目に僕が飲み込まれてしまったら、とても気持ちがいいんじゃないかしら。この足元に、地面の下に、だからすごく複雑なんだ。


      *    *    *    *    *    *    *    *


 線路の向こうには何がある。真直ぐな道の向こうには何がある。飛行機雲の先っぽには何がある。遠い山には何がある。遠い川には何がある。森の片隅には何がある。草原の彼方には何がある。風は何を響かせている。雨音は何を歌っている。雷光は闇夜を引き裂き、そうしてちらりと見せる“向こう側”、さてあの向こうには何がある。星の瞬きは何を語っている。月の光は、流れ星は、一体何を語っているんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ