新たな始まり
次に嘉月が目を覚ましたとき、そこは自宅のベッドの中だった。嘉月は手をグーパーグーパーした。
「私、戻ってこれたんだぁ!」
嘉月は、ベッドから飛び起きカーテンを開けた。すると眩いばかりの朝日が差し込んできた。
「あ! 今の時間は!」
嘉月は時計を確認した。今は朝の6時。そして日付も未来に飛ばされる前と一致している。
「良かったぁ!」
嘉月は喜びながら、外着に着替えようとした。しかし、今来ているの服こそが外着であることに気がついた。
「もしかして昨日、お風呂出た後、間違えて外着着ちゃったのかなぁ……あ! そういえば」
嘉月はポケットに手を突っ込み、中身を全て外に出した。
そこには、嘉月のオリジナル武器とお守り、更に未来で貰ったガンサーベルとシールドもあった。それを見た嘉月は興奮した。
「おおお! これがあれば研究は捗るし、あの世界の時代も特定できるじゃあん!」
嘉月はテンションマックスの状態で、出かける準備をした。元々今日は山奥に調査にでける予定をしていたのだ。しかも、その調査の目的は暗蝕の観測だ。故郷の離島にある暗蝕の成分と類似の成分を検知する薬を開発し、地道にばら撒いていたところ、その山の方で反応があったのだ。前回は時間がなくて行けなかったが今回はゆっくりと調査できる。
そうして嘉月は荷物をまとめると、ご機嫌で家を出たのだった。
そして、そのら山には昼前に着いた。嘉月は薬品を撒きながら、反応がある方へと進んでいった。そして、かなり山奥まで入り込んだとき、薬品の反応はどんどん強くなっていった。
「やっとだぁ!」
嘉月は喜んで小走りでその反応の方へと進んでいった。すると、山奥であるにも関わらず、一人の男性の姿があった。
「え? 誰かいる」
嘉月は恐る恐る近づいた。すると、男性はこちらへと振り返った。黒を中心にした服装で、黒いコートを身にまとっている。年齢は25歳手前くらいだろうか。そして何より、顔があのハルそっくりだった。
「ん? こんなところに人が来るなんて」
男は不思議そうにしている。
「え、え、え……えーと、あなたは?」
ハルとそっくりであることに対し、嘉月はかなり動揺した。そして、とりあえず言葉に詰まりながらも名前を尋ねた。
「俺は、大神春翔。職業は教授、専門は化学だ」
「あ……そうなんだぁ」
嘉月は落ち着きを取り戻した。たまたま顔が似てただけなのかもしれない。変な人と思われないようにするためにも、平常心を取り戻した。
それよりも、今この人は確かに教授と言った。年齢的には嘉月とほぼ一緒。それを聞いた瞬間、嘉月には負けん気が溢れ出てきた。
「君は?」
「私は宮野嘉月! 日本最年少の教授だよぉん」
嘉月はふふんと笑いながら、相手の様子を伺った。
そしてその瞬間、春翔は声を上げた。
「ああ! あの宮野嘉月! 確か物理の」
「そうだよぉ」
すると、春翔は右手を顎に当てながら、こう言った。
「確かに俺は君より教授になるのが少し遅れた。だからといって、技術力が君に劣っているとは限らないわけだ」
「……はぁ?」
嘉月は少しムッとした。言い負かしてやっても良かったのだけれども、そのことよりも気になることがあった。
「それより、その教授がこんなところに何しに来てるのぉ?」
「よくわからない危険な物質があるみたいでね、それを調べにきたんだ。君もそうなのかい?」
「そうだよ〜。でも、貴方よりはその物質についてもっと詳しいけどねぇ」
それを聞いた春翔は少し考え込んだ。そして、閃いたかのように尋ねてきた。
「そうだ、宮野教授、君はどうやってここにその物質があると突き止めただい?」
原始的な手法をとっている嘉月は一瞬答えに詰まった。
「それはぁ〜、手当たり次第に薬ばら撒いてぇ……」
嘉月がそう言うと、春翔は笑い出した。
「ハハハ、それは大変だね。俺だったらボタン一つですぐわかるんだけど」
そう言って、春翔はポケットから小さな画面のついた円形の機械を取り出した。
「俺が独自に作ったソナーだ。これで、半径5km内のその物資が存在する場所がわかる」
嘉月はその言葉を聞いた瞬間ハッとした。ハルも確か、自分が独自に開発したソナーを改良したと。それに、ハルが暗蝕や心のエネルギーになぜ詳しかったのか、何故ガンサーベルはあの形をしていたのか……
少しの間をあけて、嘉月は下を向いてボソッと呟いた。
「……バカ」
「え?」
上手く聞き取れなかったのか春翔は聞き返した。
それに対して、嘉月は首を振ると笑顔で答えた。
「ううん、何でもない! じゃあ、一緒に調査しよ」