自分の意思
武器を構えた二人は、見つめ合った。
「覚悟はいいな」
「ええ」
そして次の瞬間、ハルが斬りかかった。嘉月はそれを受け止め、反撃をする。
二人はまるでお互いの動きを知り尽くしているような立ち回りをしていた。
なんでだろう……ハルの動きがわかる気がする。そりゃそうか……だって負けるわけにはいかないんだから。
嘉月はハルと互角に戦っていた。
「宮野嘉月、俺は君を評価している。素晴らしいエネルギーの持ち主だ」
「そりゃどうも!」
二人は何回も攻撃しては受け止めてを繰り返していた。
そんなやり取りが続く中、だんだんと嘉月の動きが鈍くなってきた。
「はぁ……はぁ……」
息もだんだん切れてきた。その様子を見てハルが口を開いた。
「君の武器は、自らの精神をすり減らすのだろう。いつまで使い続けられるかな」
そして次の瞬間、ハルのガンサーベルが嘉月の武器を弾き飛ばした。嘉月の武器は嘉月の後方へと音を立てて落ちた。
そしてハルは嘉月の方へと歩み寄ると、ガンサーベルを振り上げた。
「さようなら、宮野嘉月さん」
そしてガンサーベルが嘉月へと振り下ろされた。これは防げないと嘉月も覚悟を決めたそのときだった。
ガンサーベルは見えない壁に弾かれ、ハルは大きくのけぞった。
「な、何が!」
ハルが嘉月の方を見ると、嘉月を包み込むように透明な球状の結界が展開されていた。そして、嘉月の左ポケットが光っていた。
嘉月は光るポケットを見て理解した。これは、幼いときに迷い込んだ森の奥で、名もなき女性からもらったお守りだ。
今この瞬間が嘉月の身の危険だとお守りが察知して、嘉月を守ったのだった。
嘉月はすぐさま、後方に飛ばされた自分の武器を拾い、ハルの方へと突進した。
嘉月とハルの間にはまだ少し距離がある。そして、お守りの効力は一瞬のようで、結界は無くなっている。それを見て、ハルはガンサーベルをガンモードに変形させ、嘉月へと照準を合わせた。
そして、光弾を放とうとした瞬間、別の光弾がハルのガンサーベルを弾き飛ばした。
「なにっ⁉︎」
ハルは光弾が飛んできた方へと目をやった。そこにあったのは、壁に押し付けられ身動きが取れないはずのガロンの姿だ。腕だけを無理矢理持ち上げ、こちらにガンサーベルを向けていたのだ。
「ハートがありゃあ、何でもできんだよ!」
ガロンはそう言い放った。
そうして次の瞬間、嘉月の赤い光の剣が、ハルの体を貫いた。
貫かれたハルの体はバチバチ音を立てた。
そして嘉月はハルに声をかけた。
「ハル……貴方の意思は私が引き継ごう……だから、貴方はもうゆっくり休んで」
それを聞いたハルは、軽く笑って答えた。
「……そうだな」
そしてその瞬間、パアンッと何かが破裂した音同時に、ハルは黄緑色の粒子となって消えていった。
「……終わったぁ」
緊張が途切れどっと疲れが出たのか、嘉月はそう言ってその場に座り込んだ。
壁に張り付けられていた四人も嘉月の元へと駆けつけた。
「大丈夫かぁ?」
アキトがそう言って声をかけた。
「なんとかねぇ〜。みんなありがとぉ」
嘉月は完全に疲れ切った様子で、笑顔でそう答えた。
「俺の協力がなかったら、オメェ負けてたぜ」
ガロンは笑いながらそう言った。
「ガロンさん、よく動けましたね。私なんて指一本動かせませんでしたよ」
「ハートがありゃあ、何とかなんだよ!」
「確かに、そうみたいですね」
フロイスは仕方ないといっだ感じで、ガロンのハート理論を認めていた。
「良かった」
ダズは嘉月にそう声をかけた。
皆がほっとしていたときだった。四人の腕の端末からメッセージが浮かび上がった。それはハルからのものだった。
『このメッセージが届くときには、俺はもうこの世にいないだろう。君たちに伝えたいことがある。今後、マスターシステムとしての指示は届かなくなるが、施設の機能自体は自動化して、問題なく動くようにしてある。今まで公開していなかったデータも全ておいておく。後は、君たち自身の手で生きていくんだ。君たちが、自分の意思で自分達の道を歩んでいけることを願っている。
ハル、又の名をマスターシステム より』
これを見て、アキトが声を上げた。
「これから、四人で頑張ってかないとな!」
「そうだな」
ダズも笑みを浮かべてそう答えた。
嘉月はそのメッセージを見て、考えていた。自分の選んだ道は正しかったのだろうか。本当は、システムの一部になったほうが良かったのだろうか。
そこまで考えて、嘉月はブンブンと首を振った。
正しかったかどうかを決めるのは、全てこれからの自分次第だ。自分は今やるべきことをやるだけだ。
「嘉月さんは、元の世界へ戻った後、どうするんですか?」
フロイスがそう尋ねた。
「私は、暗蝕についてもっと研究する! この世界だと手遅れだったかもしれないけど、私の世界でならまだ防げるかもしれないからね!」
そんな話をしていると、施設内にアナウンスが流れ始めた。
「転送システム起動。5分後に転送を行います」
そうして、このフロアの中心に何か模様が現れ始めた。
「あ、この模様に乗ってたらいいのかなぁ」
嘉月はそう言って、部屋の中心の模様の上に乗った。
そして、四人はその周り集まった。これが彼らと会話できる最後の機会だろう。嘉月は別れの言葉を述べた。
「みんな元気でね! 私こと忘れちゃダメだよぉ!もし、この世界にこれる技術が開発できたらまた遊びに来るねぇ!」
嘉月が笑顔でそう言うと、四人は笑って答えた。
「元気でな、もし来れるんだったらお前の言う美味いもん、もっきてくれよな」
「もちろぉん!」
アキトとは、食べ物の話をしていた。もしその機会があれば嘉月は大量に料理を持って行ってあげようと心に誓った。
「こちらの心配はするな、少なくともお主が遊びに来るまでは何とかやっておくさ」
「遅くなっても許してねぇ」
ダズには最初武器を向けてしまったが、今では仲良くできている。頼もしいダズのことだ、このあとも上手くやっていくのだろう。なるべくらはやく遊びに行けるようにしないとと、嘉月は心に誓った。
「俺らもハートで溢れるようになっとくからよぉ、オメェも更にハートで満たしていけよぉ」
「ふふん、私ならすぐ溢れて溢れちゃうよ」
ガロンのハート理論は結局よくわかんなかった。だけど、ガロンの行動を見ていると、そのハート理論にも説得感が出てくる気がする。嘉月はこれからも自らのハートを溢れんばかりに満たしていこうと心に誓った。
「今度あったときは負けませんからね。私ももっと腕を上げておきますよ」
「きっとそのときは、私ももっと強くなってるからねぇ」
フロイスとは手合わせをした仲だ。今でさえあんなに動けるフロイスがさらに腕を上げたらどうなってしまんだろう。次に来るときまでに、身体能力を上げる装備を開発しておこうと嘉月は心に誓った。
こうしている間に、残り10秒のカウントダウンが始まった。
嘉月は最後に笑顔で手を振った。
「みんな、ありがとぉ〜! 元気でねぇ」
四人が笑顔で手を振る姿を目に焼き付けているうちに、嘉月の意識は飛んだ。