問答
ハルは嘉月の様子を見て、なるほどといった表情を見せた。
「大体のことは察したみたいだね……宮野嘉月、君に全てを話そう」
宮野は黙ってハルの方を見ていた。
少しすると、ハルは手で口を覆い、少し考えこむような様子を見せた。
「何から話そうか……もし聞きたいことがあるなら聞いてくれ、それの方が話しやすい」
嘉月は今必要なことを頭の中で組み立てた。そして、状況を理解するためにもまず質問した。
「まず、ハル……貴方は何者なの?」
「人間だ。彼らとは違う、純粋なね。俺は、特殊な技術で精神だけを保っている。何年になるだろう、千年は経ったか」
人間……千年も生きれる技術はあってもおかしくはない。だけど、彼らと違うというのは、アキト、ダズ、ガロン、フロイスのことだろうか。
「彼らと違うというのは?」
「彼らは俺が産み出した擬似的な人間だ。まず、人と同じような器を作る。そして、そこにエネルギーを注ぎ込む。わかりやすく言うなら魂かな。その魂は、このフロンティアベースのエネルギーや、暗蝕生物な取り込んだエネルギーから作れるんだよ」
その答えに嘉月は納得した。擬似人間を作るとするならば、この方は嘉月の考えと一致する。そして、アキト達にどこか非人間的部分があった理由もそういうことなのだろう。
そして何より、この未知のエネルギーに対しての理論は誰よりも嘉月が詳しいものだった。嘉月はそのことについて尋ねた。
「つまり、フロンティアベースのエネルギーは……こころに由来するものってこと?」
「そういうことだ、飲み込みが早いな」
ここまで質問してわかった。ハルはこころのエネルギーを利用している。どのような方法で応用しているのかまではわからない。けれど、ハルはこれを使って何かをしようとしている。どんなに強大な力があったとしても、結局人間だ。そこが、現状を理解するために一番大事な点だと嘉月は考えていた。
「じゃあ、あなたは何をしようとしているの?」
その問いかけにハルはニヤリと笑うとこう答えた。
「人類の再興だ」
「……そのために、私をこの世界によんだんだ」
「そうだ。とりあえず、健康な生きた人間が来てくれればよかった」
「私以外にしてくれない?」
「もう無理だ。呼び出すのには、フロンティアベースのエネルギーの大部分を注ぎ込む必要があるからな」
「……それで、私に何をして欲しいの?」
「そこが最も重要なところだ。答えよう。宮野嘉月、君には……システムの一部になって欲しい」
ハルは純粋な目でそう言い放った。嘉月はそんな目でそんなことが言えるのかと驚いた。
「それは……私に死ねと言ってるんだよね」
「その通り。生きた人間のエネルギーさえ得られれば、全てが解決する」
そう言ったハルの表情はとても明るいものだった。
「そんなお願い、私が聞くと思うの?」
「君ならわかってくれると信じている」
「……具体的な方法は?」
「興味を持ってくれたか。まず、フロンティアベースには多くのエネルギーが貯蔵されている。しかし、それの大半は純粋なものではない。暗蝕生物から間接的に取り戻したものだ。だから、君があった彼らも擬似人間にしかなれなかったのだ。つまりだ、君のエネルギーがあれば、本当の人間が作り出せるかもしれない、いや作れる」
ハルの理論が本当なら、より人間に近いものを作り出せるのだろう。でも、嘉月はどうしても納得がいかなかった。人間とは、そんなに簡単に作り出せるものではない。
嘉月がそう考えている間も、ハルは力説を続けた。
「後の問題は暗蝕地だ。これをどうにかしないと、人間を作り出せても意味がない。だけも、これも方法がある。君も不思議に思わないか? 何故、このフロンティアベースとその周辺だけが暗蝕の影響を受けていないのか」
「何で?」
「俺にもわからない。だけど、フロンティアベースの根幹にあるエネルギーは暗蝕の影響を受けないどころか除去する力がある。そして、その効力はエネルギーを加えてやれば増大する。現に、暗蝕生物から取り返したエネルギーを補充し続けた結果、数cmだが草原の範囲が広がった。つまりだ、そこに君という純粋なエネルギーを取り込んでやれば、その範囲は拡大する」
「……全部可能性だけじゃん」
「人類を再興できる可能性があるなら、命を賭けようとは思わないのか?」
「……本当に人類は滅んでるの?」
「間違いない。俺は、かつて俺が開発した暗蝕ソナー改良を続け、今では地球全体の暗蝕度を調べることができるようになった。それで調べた結果、暗蝕に侵蝕されていない場所、元来の生物は、全滅だったよ」
ここまでの話を聞いて、嘉月には、ハルがそれしか方法がないと決めつけているようにしか見えなかった。彼は、千年は生きているといっている。千年、それはどんな精神状態なのだろう。想像もつかない。それでも、嘉月はあっさりと命を差し出すわけにはいかなかった。
「他に方法はないの?」
「ない」
「私なら、もっといい方法を見つけられると思うけど」
「無理だな。俺は千年もの間考え続けてきた、この俺がそう言ってるんだ」
そう言うハルの表情は少し悲しそうだった。彼は本当に全てを人類再興のために捧げてきたのだろう。だけど、もう遅すぎた。ここまで来てしまったら、取れる手段もほとんどないのだろう。嘉月は、何とも言えない感情をハルに抱いた。
「……あなたが、もっとはやく生まれてたら防げてたのかもしれないね」
「……そうかもな」
ハルはそう言うと、嘉月の目を真っ直ぐと見て、改めて説得した。
「だけど、まだ間に合うんだ。君がyesと言ってくれれば。騙し討ちをして君を取り込むこともできた。だけど、それではダメなんだ。全ては、自分の意思によって決定されなければならない。それは、君のエネルギーにも大きな影響を与える。だから、君には全てを話したんだ……どうか、命を捧げてくれ」
ハルはそう言うと、ただ真っ直ぐと嘉月を見ていた。その目はとても真っ直ぐで純粋に感じられた。
嘉月は目を閉じて深呼吸をした。そして、目を開き、ハルの目を真っ直ぐと見て答えた。
「確かにあなたの意思には共感できる……でも、私はここで死ぬわけにはいかない!」
嘉月はそう宣言した。
少しの静寂ののち、ハルは目を瞑り、天を仰いだ。そして、嘉月の方へと再び向き直り、ゆっくりと口を開いた。
「残念だ。君が自分の意思を通すと言うのなら、俺も自分の意思を通そう」
そう言って、ハルは懐からガンサーベルを取り出した。それは、黄緑色光とともに剣のようになった。
それを見て嘉月もオリジナルの武器を取り出した。ガンサーベルでなく、自分の武器にしたのは、自分の思いを込めたいという気持ちがあっからなのかもしれない。
こうして、お互いが武器を抜いて向き合ったそのときだった。
階段の方から足音が聞こえてきた。そして……
「嘉月! 大丈夫か!」
その声と共に、アキト、ダズ、ガロン、フロイスの四人が階段を上って現れた。
「みんな!」
彼らの姿を見て嘉月は何だか嬉しい気持ちになった。そうしている間に、彼らはガンサーベルを構えて嘉月を守るように、前方を囲んだ。
ハルは彼らを見て、意外そうな表情を浮かべた。
「君たち、どうしてここに?」
ハルの問いにすかさずダズが答えた。
「あそこまであからさまに、ワシ達を嘉月から引き離すよう指示を出されていたら、誰でも感づく」
それに続いてフロイスも声を上げた。
「話は聞かせてもらいましたよ。マスター、あなたは自分の目的のために、関係のない嘉月さんを殺そうというのですか」
そう言うフロイスの目からは非難の思いが溢れていた。それに対し、ハルは逆に問いかけた。
「聞いていたのならわかるはずだ。このことの必要性が。それに、何故君たちが俺に反抗するんだ。君たちは俺のおかげで今まで生きてこれたはずだ」
その発言に、ガロンが声を上げた。
「関係ねぇなぁ! マスターさんよぉ、オメェのハートはしょうもねぇんだよ」
それにアキトも続いた。
「マスター、嘉月は過去に帰りたがってんだ。こいつは元々俺らには関係ないじゃないすか」
ハルからしたら、彼らの反抗は予想外だったのだろう。だが、彼らの反応をみて苛立つこともなく、ハルはただ考え込んでいた。
「宮野嘉月に影響されたか……いや、これも彼らの意思か……」
そして、少ししてハルは顔を上げた。そして、語気を強めて言い放った。
「君たちの意思は認めよう。だが、邪魔はするな!」
すると、彼らは突然壁へと押し付けられた。四人は抵抗しようとするも、壁から一歩も動けなかった。
「俺が産み出しのだから、俺はお前たちを操作できる……だから、大人しくしててくれ」
ハルはそう言って、改めて嘉月の方へと向き直る。
「俺は、宮野嘉月、君をシステムに組み込むために戦おう。そして、君は俺を倒せたら過去に戻るといい。俺が死んだとき、再び転送システムが作動するように設定してある」
「そこまでやってくれるんだ」
「俺が死んだ後のことは、関係ないからな」
それを聞いて、嘉月は少し哀れみのような感情を抱いた。もしかしたら、ハルはもう終わらせたいのかもしれない。
そうして、二人は武器を構えた。