皆の気持ち
しばらくして、嘉月達は無事にフロンティアベースへと戻った。
「ガロンさん、忘れずに充電しておいてくださいね」
フロイスはそう言うと、その場を後にした。ガロンは少しため息をつくと、嘉月の方を見た。
「おい嘉月、オメェも来い」
ガロンにそう言われ、嘉月は1階の充電室へと連れて行かれた。
充電室は暗いところに、黄緑色の電子的光で照らされている感じだ。中心にハイテクな柱のようなものがあり、そこにガンサーベルを差し込む場所がある。
「見とけ。こうやるんだ」
ガロンはその明らかに差し込むために用意されたであろう穴にガンサーベルを差し込んだ。
「これで、エネルギーの補充、送り込みは完了だ」
そう言って、ガロンは再びガンサーベルを取り出した。
「差し込むだけなんだぁ」
嘉月はそう言いながら、アキトからもらったガンサーベルを差し込んで、引き抜いた。
「これでいいのぉ?」
「上出来だ」
ガロンはそう言って、嘉月の頭をポンとたたいた。気軽に頭を触られた嘉月は、少しムッとしたが、それと同時にガロンが尋ねてきた。
「なぁ、オメェから見て、俺らはどう見えた?」
「えぇ? どうと言われても……」
「ハートが足りねぇと思わねぇか?」
「ええとぉ、そのハートの定義って何なのぉ?」
「ハートはハートだ。感じろ」
「うーん……」
嘉月は腕を組んで真剣に悩んだ。理解しようと頑張ってはいるが、理解できない。
「俺は常々思ってんだ。アイツらにはハートが足りねぇってな。俺自身もそうだ。何か欠けてやがる。でも、オメェは違う」
「私ぃ?」
「そうだ。オメェからは、溢れるハートを感じる。何だろうな……」
「そうなのかなぁ」
嘉月は首を傾げた。そんななか、ガロンは少し真面目な顔で尋ねた。
「……嘉月、オメェは過去から来たと言ってたな。オメェはこれからどうするんだ」
「これから……」
確かに、ちゃんと考えていなかった。とりあえずこの場所のことを理解するのに精一杯だったからだ。嘉月は改めて、自分の気持ちを考えた。
ガロンは黙って嘉月の答えを待っていた。
嘉月は少し考えた後、答えを口にした。
「私は自分のいた世界に帰りたい。確かに、この場所についてももっと知りたいけど……でも、私にはまだやるべきことが残ってるの」
嘉月の答えを聞いたガロンは、ハッとした顔をした。
「そうか……オメェからハートが溢れてんのはそういうことだったのか」
「へ?」
「オメェには強い意志があるんだな。俺らにはそれがねぇからなぁ。いいぜ、オメェのハートが満たされてる限り、俺は協力してやる」
「ええとぉ……ありがとう!」
「ハッ。といっても、当分はオメェも俺らと暮らすわけだ。見て回ってこいよ」
ガロンはそう言うと、施設内の地図を表示した。その地図によると、2階が衣食住の生活スペース、3階に資料室やトレーニングルームなどといったその他の部屋があるようだ。
「ありがとね、ガロン。早速2階見てくるね」
嘉月は笑顔で手を振りながら、2階へと向かった。
2階へは階段で向かった。何故ならエレベーターがなかったからだ。結構ハイテクそうな割に、設備は省エネぽい感じ。
2階についた嘉月は、まず補給室へと向かった。名前的に食事ができたりするのだろうか。もしできるなら何が食べたいと思い、嘉月は補給室に入った。
そこは、そんなに広い部屋でなく、4人用テーブルが二つ置いてあるのと、奥に何か小さな機械があるくらいだ。そして、そこにはアキトがいた。
「あっ、嘉月じゃあん。お帰り」
「ただいまぁ。今、施設を見て回ってるんだけどぉ」
「まだ、少ししか案内できてなかったよな。とりあえずここは、補給室だ。お腹空いたろ、お前も食べてけよ」
「食べるって……どれ?」
「あれだよ」
アキトは部屋の奥にある小さな機械を指差した。それは、ドリンクバーの機械と同じようなサイズで、ボタンと取り出し口みたいなのがついている。
嘉月は指を伸ばし、ボタンを押してみた。
すると、黄緑色の直方体の細めの固形物が出てきた。大きさはチョコバーくらいだろうか。いろからした、食べ物には見えない
「なんか出てきたんだけどぉ」
「それだよそれ」
アキトの反応的にこれであっているのだろう。嘉月はそれを恐る恐る手に取った。肌触りも固体という感じで、食べ物とは思えない。
「え……みんなこれを食べてるの?」
「そうだよ。てか、それしかないよ」
嘉月がとても嫌そうな顔でそれを眺めてると、アキトが急に声を上げた。
「あ、待って! それ食べちゃダメだってよ」
「あ、やっぱりぃ?」
嘉月はその物体をアキトに渡した。アキトによると、マスターシステムから、嘉月の体にそれは合わないからダメだとのことだった。
「てか、私の食べれるものないじゃん」
「マスターのことだ、お前に合うやつは近いうちに作ってくれるだろうさ」
ちょっとへこんでる嘉月に対して、アキトはそう言ってなぐさめた。
「そういえば嘉月って、普段何食べてんだ?」
「私はねぇ、色々食べてる」
嘉月は自分が今まで食べてきたものいかに美味しいかという点に重きを置いて、丁寧に説明した。しかし、アキト達は今までその黄緑色の物体しか食べたことがないらしく、いまいち想像できていない様子だった。
なんなら、アキト達はその物体をたまにしか食べないらしい。理由は、そんなに食べなくても動けるからだそうだ。
「へぇー。お前のいた過去ってやつは、楽しそうでいいなぁ」
アキトは笑いながらそう言った。そして、それに続いて話を続けた。
「やっぱり、帰りたいよなぁ?」
「……うん。私まだやり残してることがたくさんあるんだ」
「やるべきことがあるってのは良いじゃねぇか。俺らなんて、何の変わり映えもない生活を繰り返してんだぜ。しかも、それに対して何とも思わなねぇんだよな」
「じゃあ、もっと過去のこと話してあげる。良い刺激になるんじゃない?」
「俺ももっと聞きたいと思ってたんだよ。頼むぜ」
嘉月はテーブルで、アキトにたくさんのことを話した。アキトも嘉月の話に興味津々であった。そうして、話し込んでいるうちに1時間くらいたった。
アキトの腕のミニ端末から音がなった。どうやら、電話のようであり、アキトはそれに出た。
「ああ、ガロンかぁ? どうしたんだよ、今こっちは取り込み中だぜ」
「さっさと一階に降りてこい! 車の手入れはオメェの仕事だ!」
ガロンがそう怒鳴ると、通話が切れた。
「あの車の手入れって、手動なんだ……」
「ということだから、すまねぇ。ちょっと行ってくるわ。ありがとな!」
そう言うとアキトは慌ただしく外へ出て行った。
嘉月は、次はどこに行こうかと考えた。3階にはトレーニングルームと資料室がある。特に資料室に興味はあるが、一度入ったら籠りきにりなりそうだったので、先にトレーニングルームを覗いてみる事にした。
嘉月は階段で3階へとあがりトレーニングルームへと入った。トレーニングルームはかなり広く、学校の体育館くらいの広さがある。そして、そこには先程見たばかりである暗蝕生物の等身大のホログラムが映し出されていた。どうやら模擬戦ができるようで、よく見たらフロイスが模擬戦を行っているようだ。
フロイスは暗蝕生物の攻撃を避けながら、少しずつダメージを積み重ねていった。そして、あっさりとそれを倒してしまった。
暗蝕生物のホログラムが消えると、フロイスはこちらに気がついた。
「嘉月さんでしたか。先程はお疲れ様でした」
「ありがとぉ。今、施設を見て回ってるんだよね」
「そうでしたか。良ければ、ここの使い方をお教えしますよ」
フロイスはそう言って、トレーニングルームの説明をした。説明によると、端にある操作パネルを利用して、暗蝕生物との模擬戦や、対人戦ができるようだった。
「なるほど、戦闘面への設備は充実してるんだね」
フロイスは少し考える素振りを見せると、ある提案をした。
「……良ければ、私と手合わせしていただけませんか?」
「是非ぃ!」
嘉月はフロイスの誘いを快諾した。防衛目的で武器を振るうことはあっても、実際に人と戦ったことはない。それ故、純粋に面白そうだなぁと嘉月は思ったのだった。
手合わせに使う武器はガンサーベル風の柔らかい剣であり、ルールは相手に重い攻撃を当てれば勝ち。相手に重い攻撃ができたかどうかは、機械が勝手に判定してくれる。
二人は、お互いに剣を持ち、向かい合った。
「準備はいいですか?」
「いつでもオーケィ!」
機械音声によるカウントダウンが始まる。
3……2……1……ビーッ!
ブザー音ともに、嘉月はフロイスに斬りかかった。初太刀は軽くいなさられたものの、嘉月は連続で剣を振り続けた。
フロイスは軽やかな動きでそれをいなし続けた。
「攻めてこないのぉ?」
嘉月がそう言うと、フロイスは軽く笑った。そして次の瞬間、フロイスは飛び上がり嘉月の頭に片手をついて回転し、嘉月の背後に着地した。
「えぇ!」
嘉月は急いで振り返り、剣を構えた。その剣は運良くフロイスの剣を防いだ。
フロイスは一歩引くと、軽やかな動きで翻弄するように、多方面から仕掛けてきた。
先程までの攻勢から一変し、嘉月は守ることが精一杯であった。
フロイスはこの運動神経を利用し、常に死角に回りこむようにして仕掛けた。
そして、フロイスはついに完全に嘉月の背後にまわり込んだ。
いけると確信を持ったフロイスは、嘉月の背を一直線に貫こうとした。
その瞬間、嘉月はノールックで身体を左に大きくのけぞらした。そして、フロイスの剣が空を貫いた瞬間、嘉月の剣はフロイスの脇腹をとらえた。
そしてビーっというブザー音が鳴り響いた。嘉月の攻撃がフロイスへ通ったと判定されたのだ。
フロイスは立ち上がると、嘉月の方へ向き直った。
「僕の負けです。ありがとうございました」
フロイスはそう言うと、手を差し出した。
「ありがとうございましたぁ!」
嘉月はそう言って、フロイスの手を握った。そして、手を離すと嘉月はふふんと笑いながら口を開いた。
「どうぉ? 私、剣の使い方だけは自信あるんだよねぇ」
その言葉にフロイスは笑顔で答えた。
「見事でしたよ。身体能力は私の方が高いはずなのに、全てをひっくり返されてしまいました」
「そうそう! フロイス君の動きが軽やかすぎない? めっちゃびっくりしたぁ」
「日々、鍛錬に励んでいますからね」
「何のためにそんなに鍛えてるの?」
「何のためですか。特にありませんね。暇だからでしょうか」
「へぇ〜。それであそこまでの動きまで……」
「嘉月さんは、何のために剣の扱いを上達させたのですか?」
フロイスの問いに、嘉月は右手を顎に当てて考えた。
「ん〜、勝手に上達してったて方が合ってるかもだけどぉ……何か一つ戦える手段がないと、やりたいことができないの」
「やりたいこと……ですか」
「そう! フロイス君はやりたいこと何かあるの?」
「私は……そうですね、また貴方と手合わせしたいですね」
「私との手合わせそんなに楽しかったんだぁ〜。えへへ、またやろうねぇ」
嘉月や答えに、フロイスは笑みを浮かべて頷いた。
嘉月はそのまま話を続けた。
「他の皆んなとは、一緒に何かしたりしないの?」
「あまりすることはありませんね。業務以外では、軽く談笑するくらいでしょうか」
「貴方達仲間なんでしょ。一緒に遊んだらきっと楽しいよ」
嘉月がそう言うと、フロイスは少し考える素振りを見せた
「仲間ですか……確かに貴方の言うとおりですね。貴方と手合わせしたときも楽しかったですよ」
フロイスの返答に嘉月は笑顔を見せた。二人は後片付けをし、トレーニングルームを出た。
「嘉月さん、この後のご予定は?」
「資料室に行く予定! まだまだわからないことだらけだから、しばらく篭ろうかとぉ」
「いいんじゃないですか。そういえば、ダズさんも資料室にいるはずですよ。知識面で言えば、彼が一番優れたいるでしょう」
「へぇ〜、そうなんだぁ。じゃ、行ってくるね! 楽しかったよぉ」
「ええ。いってらっしゃいませ」
そうして嘉月はそのまま資料室へと向かった。