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Katsuki Theory  作者: kanp
2/8

暗蝕生物

 嘉月はアキト達に連れられ、建物の一階へと入った。広々としたエントランスが広がっている。雰囲気は、白を基調としたもので、清潔感がある。新しくできたばかりのホテルのロビーくらいには綺麗だ。


「うわぁ、綺麗だね」


「掃除してるわけでもないんだけどな……ま、一階から順に案内するよ。まずは、あそこだな」


 嘉月の感想に対し、アキトはそう答えた。見てる感じ、ダズは寡黙で、アキトはよく喋る感じだ。そうしている内に案内された部屋は100人くらいは入れるだろうか、少し薄暗く正面にとても大きなモニターがある。それ以外は、それを操作する席が一つあるだけだ。


「ここは、会議室みたいな感じだ。ほら、正面のモニター、見てみな」


 正面のモニターには、フロンティアベースを中心とした、場所ごとに色分けされた簡易的なマップが表示されている。


 建物のすぐ周りは緑、更に外側は紫で、建物から離れるほど濃いように感じる。


「これは、何を表してるの?」


「ああ、これは暗蝕度を表すマップだ」


「……え! 暗蝕!?」


「何だ、知ってんのか?」


「いや、詳しくはわかんないけど」


 この場所の周りは全て暗蝕で……いや、たまたま同じ呼び方なだけかもしれない。嘉月はとりあえず黙って聞くことにした。


「暗蝕っていう侵蝕だな。それが進んだ場所では、生き物は生きていけないらしい。それでこの濃淡は、その度合。フロンティアベースの周りはかなり薄いだろ。これくらいなら、問題なく入れるぜ」


 アキトがそう話していると、強面のダズが席に座りパネルを操作した。すると、ピコーンという音とともに、マップに丸がたくさん表示された。


 フロンティアベースには淡いピンクが10個と、ピンクが1個。そして、暗蝕の進んだ場所については、かなり遠くの方に青が3個くらいだ。


「この丸は、生物の場所を表してるんだ。淡いピンクが俺らだな。この通り、4人いる。このピンクはお前か? 多分そうだろうな。で、遠くの方の青いやつが暗蝕生物だ」


「暗蝕生物?」


「ああ。暗蝕が進んだ場所を暗蝕地と言うんだけどな、そこで生まれた奴らだ。見た目は……上のデータベースで画像が見れるから後で調べてみたらいいぜ」


「危険なやつなの?」


「ああ、襲ってくる。だからそいつで倒すんだ」


 アキトは嘉月が持っている、アキトの武器を指差した。


「あ、返すの忘れてたね……」


「いや、やるよ。予備もあるからな。その武器はガンサーベルっていう。こいつで、暗蝕生物をぶっ倒しにく。で、フロンティアベースに戻ったら、充電すんだ」


 ガンサーベルなんて名前、誰がつけたんだろうとも思ったが、今はそんなときではない。アキトの話の通りなら、外は危険ということになる。


「大事なことを忘れている」


 寡黙だったダズが口を開いた。


「わりぃ、そうだったな。何か倒したときに、暗蝕生物が持ってるエネルギーがこのガンサーベルに保存されるんだってよ。それで、充電するときにそのエネルギーがこのフロンティアベースに蓄えられるってわけだ」


「つまり、そいつらを倒すことによって、この場所は存続しているってこと?」


「そうだ」


「どのくらいのペースで倒さないといけないの?」


「週一くらいだな」


 話を聞いてきて、嘉月はだんだんこの場所について少しずつわかってきた気がした。しかし、気に

なることがあった。


「週一……てことは、いま何年何月何日とかわかる?」


 嘉月がそう尋ねると、アキトは腕に巻いてあるミニ端末みたいなのを操作した。すると空中に画面が映し出された。アキトはそれをみて答えた。


「3054年3月23日だ」


「……???」


 嘉月の動きが完全に停止した。というより、一瞬思考が停止した。そして、嘉月の頭は今までの情報を急速に処理しはじめた。そうしてやっと、嘉月は事態が飲み込めた。


「……ここって、未来なの?」


「え、何言ってたんだ?」


 嘉月の問いにアキトも困惑の様子を見せる。


 嘉月は自分に起こったことと、自分のいた年代等について二人に話した。


 その話を聞いたアキトとダズは顔を見合わせた。


「なんか凄いことになってんだなぁ」


「初耳だ。俺とアキトはただ外に人間が現れるからここを案内しろと言われただけだ」


「言われてたって、誰に言われたの?」


 その嘉月の問いかけに、アキトは答えた。


「マスターシステムだ。この施設はマスターシステムのもとで成り立ってるからな」


「システムって……管理者とかはいないの?」


「ああ。俺ら四人はこのマスターに従ってるだけだからな」


 その話にダズが補足した。


「加えていうならば、この施設のシステムも全てマスターによって管理されている」


 マスターシステム……人工知能とかだろうか。内部構造がわかれば、詳細がわかるのだが。


 嘉月は考えた。ここまでの話で、ダズやアキトが嘘をついていないと仮定しよう。なぜそのマスターシステムは私が過去からこの場所に来ることを知っていたのだろうか。予知したのか、それともそのシステム事態が私を呼んだのか。


 まあ、彼らは案内してくれるみたいだから、もっと情報を得てから考えたも良いかと嘉月が思ったそのときだった。


 部屋の扉が開くと、若い男が入ってきた。ガタイが良く、オレンジの髪をしている。ダズや、アキトと同じ服装をしている。30歳くらいだろうか。若干ヤンキーぽい雰囲気かもしれない。


「お、こいつか!」


 その男は嘉月の方へとズカズカと歩み寄ると顔を嘉月へと近づいた。


「俺は、ガロンだ。あんた、名前は?」


 圧があり、思わず少しのけぞったが、何かこのままだと悔しいので、嘉月は負けじと自己紹介した。


「ふふん、私は宮野嘉月! 嘉月って呼んで!」


 大丈夫かなぁと思っていると、ガロンは顔を引いて、突然笑い出した。


「ふはははは! こいつにはハートがあるなぁ!」


 その様子を見てダズは少しため息をついてこう言った。


「おい……あまりびびらすなよ」


「何だってぇ? こいつのどこがビビってるように見えるか? 逆にオメェらはハートが足りねぇんだよ」


 何か変な人が来たなぁと、嘉月が見ているとアキトがそっと近寄って囁いた。


「あいつはいつもあんな感じなんだよ。でも、気に入られたみたいでよかったじゃん」


 果たして気に入られたのだろうか。嘉月は微妙な顔をして軽く笑った。


「ところでガロン、何しにきたんだ?」


 アキトが尋ねると、ガロンは忘れてたとばかりに答えた。


「そおぅだった! そこのマップに写ってる奴を一体倒してこいってマスターからの指令だ」


 ガロンはそう言って、マップの暗蝕生物を指差した。


「え、俺らには来てないけど?」


「言ったろぉ、オメェらにはハートが足りねぇって。指定されたメンバーは、俺とフロイスとこいつだ」


 そう言って、ガロンは今度は嘉月の方を指差した。


「え…… 私ぃ?」


 嘉月は驚きながら、ダズとアキトの方を見た。ダズは少し考える素振りを見せると口を開いた。


「ここで生きるには必要なことだ。マスターはおお主にそれを学ばせたいのかもしれんな」


 続いてアキトも口を開いた。


「ま、コイツはともかく、フロイスならしっかりしてっから大丈夫だろ」


 アキトは親指でガロンの方を指しながら笑ってそう言った。


「オメェに言われたかねぇよ。嘉月ぃ、サッサと行くぞ」


「はぁ〜ぃ」


 嘉月は仕方なく、ガロンの後をついて行った。




 外に出て少し歩くと、バギーのようなものが止まっており、そこにも同じ服を着た男が乗っていた。スラットした細身の体型で、髪は黒。端正な顔立ちで、年齢は20歳くらいだろうか。


「来ましたか。初めまして、フロイスです」


 フロイスは丁寧に嘉月へと挨拶をした。


「私は宮野嘉月。嘉月って呼んでねぇ」


 嘉月も笑顔でそう答えた。


 そんな様子を見て、ガロンはため息ををついた。


「はぁー……相変わらず堅苦しいなぁ、オメェは」


「ガロンさん、嘉月さんの装備は大丈夫なのですか?」


 フロイスの質問に、ガロンは少し沈黙した。


「……嘉月、オメェ、装備はもらったのか?」


 そう言われた嘉月は、ポケットからオリジナル武器とガンサーベルを取り出した。


「これがアキト君からもらったやつで、こっちが私のオリジナル」


「嘉月さんは、シールドはお持ちでないのですね」


「シールド?」


 嘉月聞き返すと、フロイスはポケットから手のひらサイズの円盤に取っ手がついたようなものを取り出した。そして、ボタンを押すと、その円盤の周りに黄緑色のシールドが展開された。


「こんなのあるんだぁ。私初めてみた」


「嘉月さんはこれを持っておいてください。シールドがあれば、大抵の攻撃は防げますから」


「ありがとぉ!」


 嘉月はお礼を言って、フロイスからシールドを受け取った。


「では、お二人ともこの車に乗ってください。すぐに出発します」


 フロイスはエンジンをかけた。バギーのような見た目に反し、エンジンがかかったときの音は静かであった。


 嘉月とガロンが後部座席に乗ると、バギーはタイヤを水平にし宙に浮くと、勢いよく動き出した。


 スピードはかなり出ており、風が顔に当たる。すぐに草原のエリアを出て、暗蝕地へと入り込んだ。


 周りは殺風景で、何もない。地面は若干紫を帯びている感じだ。空気もほんの少し曇っているかのようにみえる。


 マップで見た通り、しばらく先までの暗蝕度は低いらしい。実際にこの暗蝕地を通っている現在、身体に異常は発生していない。


 フロイスは運転しながら、後部座席のガロンに声をかけた。


「ガロンさん。嘉月さんに暗蝕生物の倒し方をレクチャーしておいてください」


「わかったよ」


 ガロンはそう答えると、腕のミニ端末のようなものを操作した。


 すると、そこから空中に立体画像として、未知の生物のようなものが映し出された。


 骨のような、かといって皮膚がある。足と手は曖昧で、何足歩行なのかさえわからない。ただただ、異質な生物だった。


 しいて言うならば、古代生物のアノマロカリスを骨骨しくした上で、地上を歩いているような感じであろうか。


「こいつが暗蝕生物だ。他にもいるみてぇだが、俺らはこいつしか見たことねぇな」


「こいつって強いの?」


「俺らからしたら楽勝だ。力は強いが、戦闘力は高くねぇ。離れたところから撃って、怯んだところをぶった斬ってやれ」


「私でも勝てるかなぁ?」


「余裕だろ」


 ガロンは笑ってそう言い放った。


 しばらくして、その暗蝕生物の姿が見えてきた。大きさは、でかい。小型船くらいの大きさはあるのではないだろうか。


「私が運転しながら、光弾を当てて注意を引きます。お二人は降りたうえで、暗蝕生物が隙を見せたら倒してください」


 フロイスの言葉を受けて、暗蝕生物から少し離れたところでガロンと嘉月は降り、嘉月はオリジナルの武器を、ガロンはガンサーベルを構えた。


 そしてフロイスがバギーのようなもので暗蝕生物へと接近した。すると、暗蝕生物は奇妙な声を上げると、フロイスへ向けて腕のようなものを薙ぎ払った。


 土煙が上がるなか、フロイスは巧みに車を操作し、それを躱わした。そしてガンサーベルを取り出し、光弾を撃ち込んだ。


 暗蝕生物は少し怯むような素振りを見せた。


「今です」


 フロイスの声を聞いた、嘉月とガロンはガンサーベルで斬りかかった。


 その瞬間、暗蝕生物は後方へと飛び下がり、踵を返して逃げ出した。


「え、逃げたぁ?」


「おい、フロイス!」


 嘉月が困惑するなか、ガロンの声とともにフロイスは二人を拾って、追跡を開始した。


「フロイス、どうなってんだこりゃあ」


「いえ、私にもわかりません。暗蝕生物が逃げ出すところなんて初めて見ましたよ」


 二人の会話によると、何かイレギュラーが発生しているらしい。フロイスは車のスピードを上げた。


 暗蝕生物の逃げ足もなかなか速かったが、この車のスピードのほうが十分速かった。


 そして、車は暗蝕生物の少し後ろのところまで接近した。


「よっしぁ、フロイス! 速度固定しろぉ」


 ガロンはそう言うと、立ち上がった。そして、次の瞬間、暗蝕生物の方へと高く跳び上がり、ガンサーベルで暗蝕生物を一刀両断した。


 そして、両断された暗蝕生物は地面へと崩れ去った。


 フロイスは、そのすぐ側に車を停止させた。


「お疲れ様です。さぁ、さっさと乗ってください。帰りますよ」


「オメェは愛想がねぇな」


 ガロンはそう言いながらも再び車に飛び乗った。フロイスはフロンティアベースへ向けて再び車を走らせた。


 振り返ると、暗蝕生物の死骸は放っておかれたままだった。


「ねぇ、あの暗蝕生物の死骸は放っておいていいの?」


 嘉月がそう尋ねると、フロイスは頷いた。


「はい。暗蝕地の特性として、死骸はすぐに地面に吸収されます。それに、施設に必要なエネルギーはガロンのガンサーベルに蓄積されましたので」


「ふぅん」


「そういえば、アキトさんやダズさん達とはどんなお話をされたのですか?」


「あ、そういえばまだ言ってなかったね」


 帰り道の間、嘉月はフロイスとガロンにも、自分の事を話したのだった。






 


 



 

















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