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奇談その4 桜

作者: 蒼山 夢生

まえがき

 今では桜は陽の花として親しまれていますが、

その昔は魂の集まる場所とされていたようです。

 本作品ではそんな桜をモチーフにしてみました


 11月になったある日、男とその孫娘が家の庭で遊んでいた。

「じぃじ この奇麗なお花はなんていうの」とその孫娘が聞いてきた。

男は「桜って言うんだよ」「この桜はね、毎年今の時期に咲くんだよ」

そう言って感慨深く桜を眺めた。

その孫娘は「どうして寒い時に咲くの」と男に聞いた。

男は「それはね・・」


 男がまだ若かった頃、相思相愛の女性がいた。

二人は草花が好きで、中でも桜の花は群を抜くものだった。

二人はその季節になると桜の花を求めてよくあちらこちらへと出かけ、

二人は楽しく華やいだ季節を過ごしていた。


 しかしある日、それは突然としてやってきた。

 その女性が病に侵され、医師からは余命も半年位であろうと告げられた。

男は奈落の底に落ちた様に感じた。

 ある日の事、男が病院に見舞いに行くと、その女性は死ぬ前に

桜が見られたらと言った。

男はその言葉を聞き、桜の花を見せたいと心から願った。

男は死に物狂いで色々と調べ、季節外に花を咲かせる方法を知った。

それから男は桜の枝を手に入れると、調べたとおりに桜の枝の手入れをした。

そして桜の花を寒い季節にも関わらず咲かせる事が出来た。


 男は喜び急いでその桜の花を持つと、寒風の中をその女性の元へと駆け付けた。

「桜だよ 君のために咲いてくれたんだ」とその女性に言った。

その女性は「ありがとう~ 奇麗ね~」と言い、

「私は桜になって帰って来るから、この桜を男の近くに植えて欲しい」と頼んだ。

男は快諾した。

それからその桜が散るようになったとき、その女性も今生から別れていった。


 男はその女性の想いを叶えようと、寒い冬の間、家の中でその桜の枝を

手厚く管理していた。

やがて春が巡ってきて、その桜の枝も無事寒い時期を越し、

一層元気になった様に男には見えた。

それを見て男は、その女性が願ったように、自宅の庭の丁度良い場所を選んで

桜の苗を植えた。


 男はその女性を想い、一生懸命手入れをして一年が過ぎたが

その桜は春に花を着けなかった。

 ところが、その年の寒風が吹く頃になってその桜は花芽を着けた。

「今時花芽を着けるとは、不思議な事が有るものだ」と男は思った。

そして11月になり、その女性が今生と別れを告げた日に、

その桜は白味がかったその女性の肌を思い出させるような美しい花を咲かせた。

 男は咲いた花を見た時に、その女性の「私は桜になって帰って来るから」

の言葉を思い出し、「本当に帰って来たんだね」と愛おしく思った。


「それ以来この桜はね、寒さにも関わらず11月に花が咲くようになったんだよ」

と、孫娘に話して聞かせた。


 最後まで目を通して頂きありがとうございました。

人の想いは何らかの形で現れるのかもしれませんね


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