第8話(1)アリスとありす
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「……!」
玲央奈の敗北に会場がざわつく。
「これはこれは……波乱ですわね……」
左京が扇子で口元を隠しながら目を丸くする。
「驚天動地……」
真理が呟く。
「どう見ましたか?」
左京が央美に尋ねる。
「……玲央奈ちゃんに油断は無かった……」
「ふむ……」
左京が頷く。
「かと言って、イージーミスも無かったと思う」
「それもそうですわね」
左京が繰り返し頷く。
「つまり……」
「つまり?」
「彼女……有栖宮アリスちゃんの実力が玲央奈ちゃんを上回ったということ……」
「まあ……そうなりますわね……」
「なに? 納得いかない感じ?」
央美が苦笑しながら左京に尋ねる。
「……わたくし……いいえ、ここ関東地方のわたくしたちの世代では、伊吹玲央奈さんこそが最強だと信じていたと言いますか……なんと言えば良いのかしら……」
左京が閉じた扇子を額に当てる。
「……打倒すべき目標」
「そう! そうですわ!」
左京が真理の呟きに対し、手を打って同意する。
「まあ……その気持ちは分からないでもないよ……」
央美が顎をさすりながら頷く。
「それが……思わぬ伏兵ですわね……」
「伏兵という表現は妥当ではない……」
「え?」
左京が再度、真理に視線を向ける。
「ゴスロリちゃんの言う通りだね。アリスちゃんはれっきとした実力者だよ」
「むう……」
央美の言葉に、左京は腕を組んで唇を尖らせる。央美は苦笑する。
「認めたくないという気持ちは分かるけれどさ……」
「……」
「少なくとも、この対局においては、アリスちゃんが玲央奈ちゃんを上回った。それは紛れもない事実っしょ。違う?」
「ええ……」
左京が不承不承ながら頷く。
「ふふ……」
「なにがおかしいのです?」
笑い声をこぼした央美を左京が睨む。
「いや、ここでアリスちゃんをあくまでもアウトサイダーだと位置づけるようだったら、お嬢もおしまいだったなと思ってさ……」
「そのような愚は犯しませんわ」
「ははっ」
「流石……」
央美が笑い、真理がボソッと呟く。
「わたくしをからかうのはそれぐらいにして頂いて……対局を振り返りましょう」
「ああ、そうだね……」
左京に促され、央美が腕を組んで考え込む。
「………」
「…………」
「……どのようなデータが得られまして?」
左京が問う。央美が口を開く。
「うん……なかなかに興味深いよ」
「どのように?」
「通常の一局で取れるデータの量よりも多い量が取れた……」
「ほう……」
左京が自らの顎に手を当てる。
「意味が分かる?」
央美が問う。左京が指を二本立てて呟く。
「……二人いらっしゃいましたわね」
「うん……」
「纏っていたオーラが変わった……」
「そう! さっきは違うと思ったけど、そうなんよ!」
真理の呟きに央美が手を叩く。左京が噴き出す。
「ぷっ……データ主義の貴女がそのようなことをおっしゃるとは……」
「いやいや、お嬢も感じたっしょ⁉」
「……ええ、感じましたわ。それはもう、ひしひしと……」
左京が両手を広げる。
「……あの有栖宮アリスちゃんは……『二重人格』ってやつだ……それぞれの人格で異なった将棋のスタイルを持っている……!」
「確かに……対局中に棋風がガラリと変わりましたわね……」
左京が首を縦に振る。
「最初と最後の……日本語が少し片言だった方が片仮名のアリスちゃん。守りに重きを置いた棋風……途中で顔を出した江戸っ子の方が平仮名のありすちゃん。こちらは攻めに重きを置いた棋風……彼女はそれをほぼ自在に使い分けることが出来る……! ……否、さっきの対局では、お互いが協力しあっているようにも見えた。さながら、相棒、サイドっキックの如く……!」
「ううむ……」
左京が腕を組んで首を傾げる。
「まあ、平仮名云々はウチが勝手に言ってるだけなんだけどさ……」
「いや、非常に分かりやすい……」
「ふふっ、あんがと」
真理の言葉に央美が笑みを浮かべる。
「……つまり、有栖宮アリスさんとの対局では、二人を同時に相手にしなくてはならないということですわね?」
「そだね」
左京の問いに央美が首を縦に振る。左京が苦笑する。
「しかしまた……難敵の出現ですわね……どうやって攻略すべきか……」
「尻尾ちゃんのお手並み拝見だね」
「そうですわね。とくと見物させて頂きましょう」
央美の言葉に左京が頷く。
「サイドテールVSサイドキック……。これは盛り上がってきた……!」
真理が小さい声で呟く。
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