自白
それからというもの、時間の進みはめちゃくちゃ早くなり。水嶋家は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
呆然とするアカリさんの前で、申し訳なさそうに自白を始めた昭子さん。
「夫は余命宣告を受けていた」
「それ以来、正常な考えができなくなってしまった」
「そんな中『お金の咲く木の苗』の話を聞き、買いたいと言い出した」
「これがあれば自分の死後も子供たちに楽をさせてあげられるからと」
「でも、本当は私も、買うのは反対だった」
「どうにかして止めたいと思っていたけど、止められなかった」
「一億円は、佐久間さんに帰ってもらうために準備していたお金だった」
「それで帰ってもらえなかったことを考えて、全財産を使わせないため、資産のほとんどは金に変えて裏山に埋めて置いた」
「そのことを夫に伝えたら口論になった。そこで――」
「お札をまいたのは、夫への贖罪として。最後まで『お金の咲く木の苗』を信じてこの世を去ったあの人が、死後に嘘つきの愚か者にならないように」
「全責任は、夫を止められなかった私にある」
「だから喧嘩しないで、兄弟仲良くやって欲しい」
全てを語り終え、ほっと胸を撫でおろす昭子さんとは対照的に、彼女の子供たちは恥も外聞もかなぐり捨て「嘘だ!」と叫び出した。
もしかしたら、彼らは全員気付いていたのかもしれない。
義文さんの死体に積み上げられた、大量のお札を見た時。『お金の咲く木の苗』によって大量のお札が生み出されたのでなければ、自分たちの母親がやったに違いないと。
だけど彼らはそれを信じたくなかった。だから頑なにあの胡散臭い詐欺師どもがやったのだと、そう思い込もうとしていた。ただ一人、現実を見る覚悟を持っていたアカリさんを除いて。
彼らは皆、声が果てるまで母親の無実を叫び続けた。けれど無情にも、ほどなくして到着したパトカーの群れは、自首をした彼女の証言を信じ、連れ去ってしまった。
後に残された子供たちは、皆魂が抜けたように呆然と立ち尽くしている。
そんな中、相澤さんがアカリさんのもとに行き、しばらくひそひそと囁いた後、一枚の紙を手渡した。アカリさんは微動だにせず相澤さんの言葉を聞いていたが、彼女が話を止めこちらに戻ってくる際、一度だけ小さく頭を下げた。
相澤さんは振り返ることなく俺の前に来ると、車の鍵を押し付けてきた。
「ほら、帰るわよ」
「え、あ、はい」
彼女に促されるまま、俺は車へと乗りこむ。
車のフロントガラスから、改めて屋敷が見える。
まだ昨日のことなのに、最初に見た時とは随分と印象が違う。昨日は広大な敷地と重厚な玄関から荘厳な迫力を感じた。だけど今は、寂寥感を覚える廃墟のように感じれられた。
そうなってしまったのは、間接的にではあるが、間違いなく俺たちのせいである。
死ぬほど苦いコーヒーを飲んだような、胃のもたれる感覚。
果たして、俺はこの仕事を続けられるだろうか? 続けてもいいのだろうか?
そんな疑問を持ちながら、半ば無意識に車を発進させる。
十分ぐらい走らせたところで、俺はふと、何か忘れていることを思い出した。
「そういえば、佐久間さんどこ行きました?」