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異世界転生の舞台裏

作者: 馬之群

この作品は短編小説です。異世界転生系が好きな方は読まないことをお勧めします。

「あー、異世界転生したい。」

皆一度は思ったことがあるだろう。こんな退屈な日常があと数十年も続くなんて考えただけで嫌になる。うだつの上がらない無口な父親、厚化粧で小うるさい母親、つまらない授業を受けて、くだらないクラスメートのバカ騒ぎを見て、家に帰って家族の小言を聞くだけ。


俺の家族の酷さは、俺の名前を見ただけでも分かる。どこの世界に、自分の子どもに『鈴音(りんね)』と付ける親がいるんだ。俺は男だぞ。俺は道端の小石を蹴飛ばした。小石は土手を転がって小川に落ちた。


まあ、かくいう俺も頭は悪いし、顔も良くないし、社交的な性格でもない。どうせこの先碌な人生を送らないだろう。このまま、ただ日々を浪費するしかないなら、いっそ…。


「ハァ。」

俺だって分かってはいる。現実は小説のように甘くはない。ある日突然、イケメンとして異世界に転生して、チート能力を授かってハーレムを築くことができるなんて本気で願うほど愚かではない。ただ、空想を楽しむくらいで十分だ。


ヒロインは金褐色のセミロングの髪で、瞳は深緑が良いな。服装は…。


俺はさらに妄想にのめり込みながら、道を歩いていた。ハッと現実に引き戻されたのは、大きなクラクションと迫り来る巨大な鉄の塊によってだった。何が起こっているか理解する前に全身を衝撃が貫いた。


「キャアアアーーーーーーー!!!!」

悲鳴が聞こえる。視界が赤く染まっていく。体がピクリとも動かない。そうか、俺は死んだのか。あっけない最期だった。俺の意識はすぐに薄れていった。


________________________________________


「鈴音!」

俺はハッと目を覚ました。ここはどこだ?俺は生きているのか?


「お目覚めですか、リンネ様。」

可愛らしい声に釣られてそちらを見ると、そこには金褐色のセミロングの髪を風になびかせている、深緑色の瞳をした美少女がいた。俺は異様な状況に戸惑いながら、その少女に声を掛けた。


「ここは…。君はどうして俺の名前を…。」

「説明している時間は御座いません。私の異世界転生の術が不完全だったせいで、リンネ様の世界からの追っ手が来てしまっています。急いで此方にいらして下さい。彼らはこの川を超えて追ってこられないのです。」


少女は俺の手を取った。柔らかくて小さな手だ。俺は訳が分からないまま、少女に手を引かれて走り出した。辺りは焼け野原のようになっており、大きな川が目の前をうねっている。強い流れの濁った大河だ。俺はそちらに進むことに抵抗を覚え、足を止めた。


「リンネ様?」

「俺は…渡れない。無理だ。」


「うわあああああああ!!!」

背後からこの世のものとは思えない悍ましい呻き声がした。振り向くと、そこには醜悪な怪物がのろのろと、俺に向かって足とも触手ともつかない何かを伸ばしながら迫ってきていた。


「りいいいいいいいいいいんんんんんぬうぇええええええええ。」


「大丈夫です。リンネ様のご意志さえあれば、私の魔法で川を渡して差し上げます。さあ!」

怖い。そもそもこの少女が俺の味方だとどうして言える?俺はその手を取ることを躊躇った。


「んんんぬぅぅううわぁぁぁぁぁぁぁずずずぅぅうぇええええ!!」

先程の怪物とは異なる、低い咆哮が轟いたかと思うと、地面がぐらぐら揺れた。その怪物は俺達を襲おうとしているように見えた。辺りにけたたましい音が響く。


「うわ!」

俺は悲鳴を上げた。右手にぬめりとした奇妙な感覚が走る。見ると、最初の怪物が俺の右手を掴んでいた。どんなに頑張っても振り解けない。


「リンネ様!」

少女は俺に手を伸ばしてきた。俺は怪物と濁流を見比べ、少女の深緑の目をじっと見た。


________________________________________


「鈴音!先生、鈴音の容態は…?」

厚化粧が涙で溶けかけている女性が言った。白衣姿の医者らしき人物は難しい顔をしている。

「手は尽くしました。後は本人の気力次第です。どうかご家族が傍で声を掛けてあげて下さい。」


女性は病室に入っていった。ベッドには様々な機器を着けられている少年が眠っている。女性はその姿を見るなり泣き崩れた。

「鈴音。お願い、どうか目を開けて…。」


「どうして、息子を轢いたんだ。何故!」

廊下から病室に響くほどの怒号が響いてきた。

「す、すみません。急にブレーキもハンドルも利かなくなって。」

「トラックの整備を怠ったんだろう!」

「ち、違います…。本当に。僕もどうしてこうなったか…。」


病室の中にいた看護師が、廊下に注意しに向かった。その途端、少年に繋がっていた機器から警報音が鳴り響いた。

「どうか死なないで、お願いよ…。」

女性は少年の右手を強く握りしめた。


________________________________________


川の向こうには美しい野原が広がっていた。少女は言った。

「ここまで来たらもう一安心です。私が転生の術を失敗したせいでご迷惑をお掛けして申し訳御座いませんでした。お詫びと言っては何ですが、リンネ様が望む能力を全てお授けしましょう。」


俺はニヤリと笑った。やはり異世界転生はこうでないと。もうあんなくだらない毎日とはお別れだ。俺はこの世界でチート能力を駆使してハーレムを築いてやる!

もしかしたら同じような小説が既にあるかもしれません。その時はすぐに削除します。

そうでなくても各方面からお叱りを受けそうです。本作は深い意図などない作品ですので、流し読みしてすぐ忘れて頂けたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言]  元の世界での俺は云々という話も、元の世界の現在を見て云々という話も結構あるので、何か言ってきた奴はクレーマー扱いで良いと思います。
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